No1に、なれなくても

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No1に、なれなくても

ただでさえスッピンで寝起きの私の顔なんて、そんなに近くで見られたくなかったのに、中村さんは、「うた、がんばれ、うた、がんばれ」と言いながら、しばらくそうしていた。 「私は、ミサには、勝てないですよ」 「いいんじゃない」 「…いいの?」 「うたは、頑張ってるからな」 私、No1に、ならなくても、ちゃんと価値があるの? No1に、なれなくても、中村さんはいいって言ってくれるの? 彼の手のひらはいつもと同じであたたかい。 勘違いしてしまいそうになる言葉と温度をくれる。 私は中村さんに「色管理」をされているだけだ。 そう思っておかないとダメだ。 でないと、私がNo上位入りが出来なくなった時に、きっと変わってしまう彼の態度に深く傷つくことになる。 言い聞かせる。 何度も何度も、愚かなことをしでかしてしまった自分に。 彼の担当している他のキャストのお姉さんが、私のことを抜かして、ミサのことを抜かして、いつかNo1になって、しかも中村さんに好意を寄せていたら。 その時はそのキャストのお姉さんが、きっとこの声と温度を手に入れるのだろう。 なんでもないこと、私にはそんなの、どうでもいいこと、って。 今までの男たちみたいに、そう思えるように。 そうだ、そうしよう。 私は、前までの恋愛観でいい、その時だけ楽しければ、後はどうだって良かったはずだ。 それでいいんだ、私は、間違えないようにしなければ。 中村さんの鎖骨におでこをくっつけて、心臓のあたりにキスをした。 私は幼稚で、はじめてかもしれない恋愛にまさに心を焦がしすぎていて、しかもメンヘラだったものだから、自分の誓いの為にそんな陳腐なことをした。 ちゃんと睡眠をとったのに、まだ酔いがさめていなかったのかもしれない。
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