51人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
No1に、なれなくても
ただでさえスッピンで寝起きの私の顔なんて、そんなに近くで見られたくなかったのに、中村さんは、「うた、がんばれ、うた、がんばれ」と言いながら、しばらくそうしていた。
「私は、ミサには、勝てないですよ」
「いいんじゃない」
「…いいの?」
「うたは、頑張ってるからな」
私、No1に、ならなくても、ちゃんと価値があるの?
No1に、なれなくても、中村さんはいいって言ってくれるの?
彼の手のひらはいつもと同じであたたかい。
勘違いしてしまいそうになる言葉と温度をくれる。
私は中村さんに「色管理」をされているだけだ。
そう思っておかないとダメだ。
でないと、私がNo上位入りが出来なくなった時に、きっと変わってしまう彼の態度に深く傷つくことになる。
言い聞かせる。
何度も何度も、愚かなことをしでかしてしまった自分に。
彼の担当している他のキャストのお姉さんが、私のことを抜かして、ミサのことを抜かして、いつかNo1になって、しかも中村さんに好意を寄せていたら。
その時はそのキャストのお姉さんが、きっとこの声と温度を手に入れるのだろう。
なんでもないこと、私にはそんなの、どうでもいいこと、って。
今までの男たちみたいに、そう思えるように。
そうだ、そうしよう。
私は、前までの恋愛観でいい、その時だけ楽しければ、後はどうだって良かったはずだ。
それでいいんだ、私は、間違えないようにしなければ。
中村さんの鎖骨におでこをくっつけて、心臓のあたりにキスをした。
私は幼稚で、はじめてかもしれない恋愛にまさに心を焦がしすぎていて、しかもメンヘラだったものだから、自分の誓いの為にそんな陳腐なことをした。
ちゃんと睡眠をとったのに、まだ酔いがさめていなかったのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!