ヤクザ

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ヤクザ

どうしても、と押し切られる形で、私は木村さんと同伴することになる。 マネージャーは、木村さんと、つまりヤクザとはあまり同伴するなと言ったけれど、私にとってはとても良い人だし、怖いと思ったことなんて一度もなかった。 映画が好きで、その日見たどういった景色や些細な瞬間が美しかっただとか、そんなことを話す木村さんは、繊細で優しくて穏やかな人だから。 でも、マネージャーが言うのだから、何か気をつけなければならないところがある人だと言うことなのだろうな、とも思う。 気をつける、か。 でも私はまだ、木村さんから何かをされたわけではないし、危険を感じたこともない。 マネージャーってば、ヒントくらい、くれたっていいのに。 そんなことを考えている間に電車が無事に駅へと着いたので、ホームへ降りると切符を通して改札口を出る。 木村さんと待ち合わせをしている居酒屋に向かって歩きながら、『もう着きますね』とラインを入れると、一度立ち止まって人の邪魔にならないように脇に避けて鏡を出すと化粧が落ちていないか確かめる。 よし、大丈夫だ、いつもの「うたこ」がそこにはいる。 そうして、気合いを入れ直して、もちろん中村さんからの忠告も念頭に置いて、私は木村さんの待つ居酒屋へと改めて向かう。 「こんばんはー!!」 大きなお店ではないけれど、とても小綺麗で清潔感のある、天井や壁やカウンターなどの内装のほとんどが柔らかな淡い橙色の木で構成されているその居酒屋さんは、実はちょっとばかりお料理のお値段が高かったり、珍しいお酒を置いていたりする。
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