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断れない
とりあえず、ちょっと同伴の時点で結構飲んでいる木村さんが珍しいので、何かあったのかな?とは思い、なるべく気に障るようなことを言わないよう気をつけながら次に発される言葉を待つ。
「うたこも、飲むか?日本酒はあまり飲まないか?珍しいやつで、そこそこ美味いよ」
「そうなんですか?じゃあ、頂きます。木村さんが勧めて下さるものって、外れたこと一度もないですから」
「それは、きっと俺とうたこが似ているものが好きなんだな」
「そうかもしれないですね、木村さんがこの間お話して下さった映画も観ましたよ」
「そうか!うたこはどうだった?…あ、ちょっと待ってろ、注文だけするからな」
「はい!あの監督さんの映画は、どれも木村さんが好きそうな雰囲気のお話が多いですね」
木村さんが私の為に、自分の飲んでいる物と同じ日本酒を店員に頼んでいる間、私は話を弾ませなければ、なんとなくいつもとノリが違うような気がする木村さんを元に戻さなければ、と、色々と彼の喜びそうな話題を振った。
『うたは、断れないやつだろ』
マネージャーの言葉を思い出す。
そうです、マネージャー、あなたの言う通り、私は断れない女です。
日本酒は酔っぱらってしまうので、あまり飲まない方が良いだろうと言うことはわかっていた。
けれど、私にはやはり、木村さんからの勧めを断ることは出来そうにもなかった。
今日の私がどうなってしまうのか、予想したくない、それでも飲むしかない。
私に出来ることは、数少ないのだから。
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