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日本酒
木村さんはすっかり本来の私が知る木村さんになっていて、何も変わらないように感じていた。
今日ははじめ、少し様子がおかしかったけれど、仕事で何か困ったことや悩むようなことがあったのかもしれない。
けれど仕事柄、私のことを巻き込むわけにはいかないと思ってたのだろうし、一般人に話せるような内容でもないのかもしれない。
日本酒を飲みながら、二人で笑い合って、時には真面目に語り合って、時間はあっという間に過ぎて行く。
「お、もうそろそろ出ないとな」
「あ、つい夢中でお話してしまって、時間を忘れちゃっていました」
「そりゃあ、よかったよ、楽しかったか、うたこ」
「はい、木村さんとのお話はいつも楽しいですよ」
嘘、嘘、嘘ばかりだ。時間なんてめちゃくちゃ気にしていた。
木村さんが自分のクラッチバックを手に持つのがわかったので、私もフラつかないように気をつけながらテーブルに手をつき立ち上がる。
私もバックを腕にかけると、お会計をしに行く木村さんに、化粧を直して来ます、と伝えトイレへ行く。
吐こうとした。でも、出すことが出来ない。
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