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花束
日本酒は途中までは上がってくるが、あまりにも喉がビリビリと痛んで、声が潰れてしまっては仕事にならない、と思うと、出すことが出来なかった。
仕方ない、酔ったまま店に向かうか。
マネージャーに呆れられてしまうかもしれない、と思うと少しばかり気が滅入ったが、メソメソいじいじしていても仕方がない。
トイレの鏡に映る自分は、頬が真っ赤に染まっていて、目も潤んでいて、あからさまに酔ってます!と言った感じだ。
まあ、生きていればこういう日だってあるだろう。
カバンからスマホを取り出すと、時間とラインを確認して、来店してくれそうな客からのラインにのみ返信をする。
時間の方はまだ余裕があり、ちゃんと22時前には同伴出勤が出来そうだった。
よし、行かなければ、木村さんが待っている。
何より、店ではマネージャーが待っている。
そう思えば、私は、頑張れる。
「うたこ、ちょっと待っててくれるか」
「はい、なんでしょう?」
会計を済ませた木村さんは、店のカウンターの席に座って私のことを待っていた。
私が側に行き、お待たせしました、と言うと木村さんは私に自分の座っていたカウンターの席を譲り、自分は立ち上がる。
何が何やらわからずにとにかく言われた通りしばらく待っていると、木村さんはカウンターの中にいる店長から何かを受け取って、再びこちらへとやって来た。
その木村さんが手にしていたのは、大きな大きな真っ赤な薔薇の花束だった。
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