告白

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告白

それを、私が座っている席の横に立って、私へ向かってずい、っと両手で握って渡して来る。 そうか、私が店に訪れる前にこの薔薇の花束を持って店に来ていて、今まで店長に預けてカウンター内の見えないところへと隠していたのか。 今日、木村さんの方からいきなり同伴を無理にお願いして来た理由と、何故薔薇の花束を渡す事にしたのかと言う理由はよくわからないが、私はこれをどうすれば良いのだろうか。 「うたこ、もらってくれるか」 「…あ、はい、どうも」 呆気に取られて、それでも無下にするわけにも行かず、私は結局、その薔薇の花束を受け取ることしか出来なかった。 生まれてはじめて、薔薇の花束と言うやつを貰ってしまった。 しかも、結構太客で、なかなかに馴染みで、でもヤクザで、それでも私の前では良識があって優しくて人の良い木村さんからだ。 受け取る以外、どうしろと言うのだ。 「俺と付き合ってくれないか、うたこ」 「ええ!!!!!!」 「俺のことが、嫌いか」 「いえ、嫌いと思ったことは今まで一度もありませんよ」 「じゃあ、試しでもいい、付き合ってみてくれないか」 「そんな、好きでいてくれる人の心を無視して、試すなんてこと、私は出来ません」 「…うたこは、本当に、今までの女たちとは違うな」 木村さんはそう言うと、寂しそうに口角を上げた。 さては、あの、木村さん、今までの女って、全員キャバクラ嬢なのではありませんか、と聞きたかった。 多分そうなのであろう、となんとなく思っていた。 いっぱしのキャバ嬢だったならば、ヤクザの太客から付き合ってくれと言われたらどう答えるのが正解なのだろう。 私にはわからない。 わからなかったから、思ったまんまそのままを答えた。 「木村さん、お気持ちはとても嬉しいです。でも私、まだ学校があるし、仕事が」 「ああ、わかってる、返事は今すぐじゃなくていい」 「年齢も、離れていますし…私は子供だから、木村さんには見合わないかも」 「そんなことない、うたこはいい女だ」 「…ありがとうございます。考えさせて下さい」 「いい方の、返事を待ってるよ」 もちろん私は学校になんて通っていないし、昼間のバイトがあると言うのだって嘘だ。 学校の学費や家賃を支払う為に夜はキャバクラで働いていると言うのも嘘だし、木村さんと気が合うと言うのだって嘘だ。 全部全部嘘だ。 嘘で、フリをして、好かれるように演技をして、そんな本当はこの世にはいない「うたこ」を、木村さんは好きになったのだろう。 きっと今までの女、つまりキャバ嬢のキャストの子たちと、全く同じように、まんまと騙されて。 そして私はまた、そんなことを彼に、繰り返させてしまうの?
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