寂しい

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寂しい

やっと終わった、と思ってギリギリで立っているフラフラな足を縺れさせ店内へ入ると、ビップルームに向かう。 今日も、これはもう、ダメなやつだ。 私は酒を飲み過ぎても、気分が悪くなって吐いたりしたことは一度もなかった。 ただ、メンヘラだったので喜怒哀楽がかなり激しくなると言う自覚がある。 取り乱しはじめ、誰かに迷惑をかけてしまう前に、こっそり一人きりになれる場所で少し休もう、と思った。 マネージャーの部屋の鍵のことは、もうすっかり頭から抜けている。 送りの車を待つ、待機席に座っている既に着替えを済ませたキャストのお姉さんたちに「お疲れ様です」と言って、何人かの返事を背中で聞きながらフロアを歩く。 一つ目のビップルームには、ミサがいた。 広めのソファに横になって眠ってしまっているようだった。 私は二つ目のビップルームへと移動して、誰もいないとわかるとソファに向かってドサッと倒れ込む。 上半身だけがソファに引っ掛かり、お尻と膝から下が冷たく硬い床へと崩れ落ちた。 よじ登る気力も出なくて、そのままの体勢で自分のことをほったらかしにする。 私は日本酒を飲んではいけない、と改めて思いながら、瞼の内側でチカチカと赤く巡る血液の筋をぼーっと黒目で追いかけていた。 ミサが起きたら、一緒に帰ろうか、それとも、ミサが先に起きて私の存在には気づかずに帰ってしまうだろうか。 …寂しいって、感じたのは久しぶりだ。
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