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ギリギリ
「乗るぞー、うたこ」
「あ、すみませんー!」
少し落ち込みそうになっていた気持ちを、マネージャーの一声があっさりと払拭してくれる。
私は、大丈夫だ。きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせる、いつも。
本当は心細くて、寂しくて、怖いことばかりで、今にも死にそうで、発狂して暴れ出しそうだ。
それでも私は大丈夫。こうして生きて行ける。
何にも考えないようにして、楽しいことだけ。
未来のことは、考えないようにして、今だけを見て生きる。
それしか、生き方を知らなかった。
タクシーを止めて、先に乗り込んでいるマネージャーのところまで走る。
フラフラとした足取りで、真っ直ぐに進めなくても走るのだ、だって早く二人で一緒に過ごしたい。
だから明日だって明後日だって私は変わらずに努力をする。
出来るだけの精一杯をやる。
そうすることでしか、マネージャーとの繋がりを守ることは出来ないと知っているから。
マネージャーの隣のシートへと飛び込むようにしてタクシーに乗った。
思いっきり寄りかかって、力が抜けて、ズルズルと上半身が倒れて行くのをそのままにした。
膝枕をしてもらっているような状態になると、タクシーのドアが閉まって、マネージャーが運転手に行先を告げる。
私は上半身を捻って、マネージャーの表情を確かめる。
もう、いいんだよね?と言う風に、目だけで問いかける。
もう、くっついても、いいんだよね、って。
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