2回目

1/1
前へ
/66ページ
次へ

2回目

二人でぼんやりと、それぞれの仕事をこなし、また私の為に黒猫柄のマグカップに並々と注がれる焼酎を見ながら、煙草をくわえて火をつける。 私はね、8歳の頃は、絵描きさんになりたかったんですよ、中村さん。 その次は、幼稚園の先生で、その次は歌を歌う人でした。 それから先は、自傷行為がひどくなって来て、メンヘラが増して来て、死ぬことばかりを考えるようになって、夢を持つことは出来なくなってしまったけれど。 中村さんは、小さな頃、何になりたかったんですか。 夢は、何か一つでも叶いましたか。 「うた、ブログとかやれば」 「ブログですか?」 「店の名前も出していいし、指名で来る客増えるんじゃないか」 「ブログかあ、でも何を書いたらいいのかわからないです」 ふう、っと紫煙を上に向けて吐くと、灰皿に灰をトン、っとリズミカルに打ち付けて落とす。 ブログ、って言うと日記ってことか。 可愛らしい文章で日常のちょっとしたことを綴って、写真をいっぱい載せたりすればいいのかな。 でもまあ、こんな色ボケ中の中身がバレたら、今いる指名の客だって私の元から去って行くと思いますけどね。 私は、店の名前での店専用のSNSを一つもやっていなかったので、中村さんはそんなことを言ってきたのかもしれない。 「まあ、無理にってわけじゃないけど、得手不得手あるだろうし」 「私は多分不得手ですね、酔っていたら、余計なことを書くと思う」 「真面目だからなあ、うたは、考え込み過ぎそうだしな」 「他のキャストのお姉さんは、どんなことを書いてるんですか?」 「写真が主だよ、店で撮った私服姿とか、ドレス姿とか、入れてもらったシャンパンのボトルとかプレゼントでもらった物だとか」 全く興味がなかったけれど、ちょっと私もそのうちチェックしてみようか。 出来そうだったらやってみてもいいかもしれないし、無理そうならすぐに辞めたらいい。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加