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ミニドレス
よし、着れた、と思って中村さんの前でくるりとゆっくり回って見せる。
「これで、上にジャケットを羽織るから、まあ背中は見えないしギリギリ大丈夫かなって思ったんですけど」
「なんだ、うた、そのまま店に出ればいいんじゃないの」
「え?」
「似合うよ、それ、いいと思うけど」
「でも、ロングじゃないと、腕にグローブしてるのって似合わなくないですか」
「そんなことないだろ、それに袖が七分くらいあるから、グローブいらないんじゃないか」
「そうなのかな、中村さんがそう言うなら、ああでも」
「脚か?」
「私、よくこけるから、痣だらけだし」
「そんなの誰も気にしてないし、ミサだってそうだろ」
「それはそうなんですけど」
「それ、似合うよ。可愛いよ、うた」
可愛い、の、か。
思わず固まってしまった私を、中村さんは別にからかったりはしていない。
ただ、このドレスがいい、私に似合っていると思って、褒めて勧めてくれているだけらしいと言うことだけは伝わってくる。
中村さんに、見た目を褒められたのははじめてではないだろうか。
顔とかスタイルとかではないけれど、ドレス姿を可愛いと、言ってもらったのははじめてだ。
「…じゃあ、着ます、これ」
「同伴だろ?今日」
「そうですね、20時に待ち合わせしてます」
「同伴の時だけ、ジャケット着といて、店着いたら上脱げばいいだけだろ」
「確かに効率的な気がしなくもないですね」
「ちょっと待ってろ、ほら、もう着替えていいから、こっち来い」
「あ、はい、え?なに?」
私はその白い背中の大きく開いたドレスを脱ぐとショップの袋へと戻し、再び黒のTシャツを頭から被って、すぐに中村さんの横へとぴょんと座り込む。
クッションにお尻をついて、燃え尽きかけている煙草を灰皿のへこみの中でもみ消して、黒猫柄のマグカップに口をつける。
中村さんが、ノートパソコンの画面に次々と色々なページを上げて行くので、私は彼の胸元に後頭部をぐりぐりと押し付けてめちゃくちゃに体温を欲しがりつつも、言われた通り目の前に映されているサイトを眺めてみる。
ああ、ドレスの通販サイト、か。
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