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客の話
シャワーから上がって来た中村さんと寄り添ってクッションに座って、焼酎を飲みながら煙草を吸って、私はスマホの画面と睨めっこをしていた。
中村さんは時々自分のスマホを弄って、パソコンで引き続き私用の膝丈のドレスワンピースを選んでは、時々私にこれはどう思う、なんて訊ねて来た。
「そうだ、これって通販のサイトですよね、商品の届く住所って私の部屋の方がいいですか?」
「どっちでもいいけど、うた、あんまり自分の家に帰る気ないだろ」
「えーっと、それでもいいって言ってくれるなら、まあ」
「じゃあ俺ん家でいいよ。代金は届いてちゃんとサイズが合ってたらくれたらいいよ、勧めたの俺だしな」
「いいんですか?」
「どうせうたは、これが届くまでくらいの間は、俺の部屋にいそうだし」
確かに、許されることならば出来るだけそうしたいと言うのが本音だった。
と言うか、通販の荷物が届いた後も、その先もそうだったらいいな、と思っていた。
そして、中村さんはそういう事に関して、あまり大事のようには捉えていないようで、別にどちらでも良いと言った感じの曖昧な答えしかくれない。
そんな態度を取られたら、私は、何がなんでも中村さんの家にいることを選ぶほかないと、そう決まっているではないか。
「中村さんて、私のこと好きなんですか?」
「まあ、そりゃ普通に」
「ふふ、普通って、何それ」
「好きは好きだよ、そりゃあな」
「嘘じゃない?」
「どうだかな」
ほら、やっぱり、と思う。
結局中村さんの気持ちはわからないままだし、思っていた通りの答えしか帰って来ない。
中村さんが私に「嘘じゃない」と言ってくれたのは、私がはじめて「NO2入り」したその時がはじめてで、私が、彼に私のことを好きなのか好きじゃないのか訊ねた時の「嘘じゃない?」には、「嘘じゃない」と答えてくれたことは一度もなかった。
でも、それでも良かった。
そんなものはなくても良かった。
ずっとそう思っていた。
「キヨシくんて、いるじゃないですか」
私は無理に明るい声を出すと、話をコロっと仕事の方へと思いっきりそらす。
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