ミサと言うキャスト

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ミサと言うキャスト

私は週6出勤のレギュラーで働いていた。 同伴もしたし、アフターもこなしたし、休みである土日はほとんど寝て過ごすか、好きな漫画や小説を読んでいるか、近所にあったレンタルショップに行っては映画を借りて来て酒を飲みながら観たりするのが日課だった。 もちろん、太い客と呼ばれる、ある程度私や店に貢献してくれる指名客と出かける約束をしていれば、休むことよりもそちらを優先した。 私は、彼氏なんかいらなかった。 19年生きてきて、私はずっと、誰のことも好きにはならなかったからだ。 店に入りたての18歳の頃は、見た目の野暮ったさも手伝ってか、色恋営業もあまり客からは望まれなかったので気が楽だった。 勤めだしたはじめの頃は、客層的には若い客は少なく、割と年齢を重ねた、それなりに遊び慣れた人物や、落ち着いている人物が多かったように思う。 その辺のことが理由なのか、それともさすがに自分の子供と変わらないくらいの年齢であるキャストに色や恋を求めると言う嗜好を持つ者が少なかったのか。 ただ酒と会話を楽しみ、まだ新人である若いキャストである私を応援してあげよう、と、そう言った純粋な想いから指名してくれている客も少なくなかったように思う。 中には若い客も居たし、年齢がそれなりに上でも色恋を望む客もいたが、私はあくまでも「新人」で「まだ勝手がわからない」と言うフリで通していた。 こんな何の取り柄もない私なんかのことを、わざわざ指名して店に通って来てくれるのだから、もちろん同伴もアフターも一切断らなかった。 冒頭に書いた通り休みである土日すらも、指名客と会う約束をすればそれに頷き、休肝日を作ることなどなく働いていた。 けれど私は、どんなに頻繁に私を目当てに店に通ってくれようとも、どんなに沢山のプレゼントを頂こうとも、どんなにたくさんのボトルやオーダーを入れてもらおうと、決して客と寝ることだけはしなかった。 それだけは、したくなかった。 ー その辺りは、ミサと私は逆だった。
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