自由のない世界

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「うぐぐ…」 ケンノエは自分の腕を掴み力を入れて引っ込めた。 (いけないいけない…盗んでしまったら僕は泥棒になってしまう泥棒になってはいけない…) ケンノエは責任感が強い誠実な青年。 物を盗む事は自分のプライドが許さなかった。 「このアズキ人め!」 「オレ達を笑いに来たのか!?」 「タダで帰れると思うなよ!」 散々罵倒を浴びるケンノエ。 それは夢にでも出た。 ケンノエは手紙を書く。 この国の不満を少しでも書くと殺される。 そしてそして手紙の中身は隅々まで見られる。 不都合な文が見つかれば反逆罪として捕えられる。 そうつまりそれだけでも犯罪になるのだ。 「何て書けば良い。悪い事を書いたら逮捕される。お金を送ってもらおう…」 ケンノエは考えながら手紙を書き綴った。 そしてそして……。 ケンノエが当て所もなく歩いていると痩せ細った二人の男女を見る。 「あの人達は!」 ケンノエには見覚えがあった。 何と二人は船の中で出会ったニコニコの両親だった。 目は虚ろで肌は土気色になりすっかりやつれているが面影はあった。 ケンノエのすぐ前に来たところで二人はドサリと倒れた。 「大丈夫ですか!?」 ケンノエは抱き起こす。 「食べ物を……」 父は言った。 「食べ物ですね?誰か誰か食べ物を!」 ケンノエは言うが周りも自分の事で一杯。 誰もやって来なかった。 (やっぱり盗むしかないのか…!) ケンノエは意を決して食糧を盗む為に闇市に向かった。
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