5人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
「ちょ……あれ」
「ん?」
目を見開いて驚いた様子の元同僚は、落ち着くためか瞬きを3度した。それから大和に向かって手招きをする。耳を貸せってことか。
「うん、だよな。平子、お前知り合いだろ?」
「え?」
「……ほら、水族館の」
「エッ」
声をひそめる元同僚の目線は、向こうのテーブルに向けられている。ゆっくり振り返った大和は、思わず声を上げた。
「成世?」
「えっ!大和?」
新規客は、誘いそびれた成世本人だったのだ。傍には連れがいる。女性だ。大和の表情が曇る。そりゃ断られるよな。いや、これには語弊がある。予定があると知らされたのは2週間も前だし、ここへ成世を誘って断られたわけではない。
「前から予約してたんだな」
「あ、うん。たまたまフェアだったみたいで、予約してなかったら席無かったみたいだし、よかった」
いつもより早口の成世。焦っている様子が伺える。何と返して良いのかわからない。
「いやーまさかこんなところでミカちゃんに会えるなんて!いつもインステ見てます!平子の会社員時代の同僚の林です」
席を立ち、ずいっと前に出た元同僚改め林は、朗らかな声と満面の笑顔で手を差し出した。侮れないコミュニケーション能力を持つこの男が、微妙な空気を追いやってくれたことに、大和はそっと感謝した。ここでコイツが、名洋水族館に可愛すぎるトレーナーがいると教えてくれたのは、何ヶ月前になるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!