第6章

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「ちょ……あれ」 「ん?」 目を見開いて驚いた様子の元同僚は、落ち着くためか瞬きを3度した。それから大和に向かって手招きをする。耳を貸せってことか。 「うん、だよな。平子、お前知り合いだろ?」 「え?」 「……ほら、水族館の」 「エッ」 声をひそめる元同僚の目線は、向こうのテーブルに向けられている。ゆっくり振り返った大和は、思わず声を上げた。 「成世?」 「えっ!大和?」 新規客は、誘いそびれた成世本人だったのだ。傍には連れがいる。女性だ。大和の表情が曇る。そりゃ断られるよな。いや、これには語弊がある。予定があると知らされたのは2週間も前だし、ここへ成世を誘って断られたわけではない。 「前から予約してたんだな」 「あ、うん。たまたまフェアだったみたいで、予約してなかったら席無かったみたいだし、よかった」 いつもより早口の成世。焦っている様子が伺える。何と返して良いのかわからない。 「いやーまさかこんなところでミカちゃんに会えるなんて!いつもインステ見てます!平子の会社員時代の同僚の(はやし)です」 席を立ち、ずいっと前に出た元同僚改め林は、朗らかな声と満面の笑顔で手を差し出した。侮れないコミュニケーション能力を持つこの男が、微妙な空気を追いやってくれたことに、大和はそっと感謝した。ここでコイツが、名洋水族館に可愛すぎるトレーナーがいると教えてくれたのは、何ヶ月前になるのだろうか。
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