第1章

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全ての食材は炭火で焼けば旨くなる、平子(ひらこ) 大和(やまと)は常々そう考えている。しかし、自宅の狭いワンルームでやるには一酸化炭素中毒の危険性があるし、自身にキャンプ趣味があるわけでもない。こうして外食で楽しむしかないので、店にはこだわりがあった。 名古屋の繁華街の裏路地で見つけた小さなこの店は、大和のお気に入りだ。この店ーー『三原色(さんげんしょく)』は、居酒屋を標榜しているのだが、炭火で焼いたあれこれがたまらなく美味い。焼き鳥にしろ、海鮮にしろ、素材も選んであるのだろうし、つけダレも絶品だ。 本当は毎日でも通いたいくらいなのだが、大和の好みど真ん中で焼いてくれる大将が居るのは、土曜の夜だけ。なので大和は、毎週土曜は炭火焼きの日と決めていた。大将はその他の曜日、よそで働いているのだと聞いたが、ここの支店があるわけではなさそうだった。ここを見つけた時には、知り尽くしたこの街のこんなところに店なんかあったかな、と不思議に思ったものだが、数回通っただけで常連として迎えられ、今ではまるで10年も通い続けた店のように思えている。 「大将!次、海老焼いてー。大きいやつね」 「はいよー」 大和の注文に、ハッピに鉢巻き姿の大将は威勢よく応えた。火を使う仕事の人らしく、額に汗が似合っている。
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