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「ちょっとトイレ」
「あーうん、いってらっしゃい」
大和が席を離れると、成世は息をついた。もう3度目の『三原色』なのに、来るたびに緊張してしまう。意識しすぎなんだろうな。ひとりになった成世は、カウンターに肘をついて、自分の感情を持て余していた。
「おかわりする?」
カウンターの向こうから、大将が声をかけてきた。手元を見れば、氷しか残っていないグラス。さっきから口をつけていたのは、ほとんど水になったハイボールだったってわけか。苦笑しながら成世は、同じのくださいと声を張った。
ガッシャーン!
突然店の外から聞こえた何かの割れる音に、成世の身体が跳ねた。続けて聞こえる、低い怒声の応酬。
「何?喧嘩?」
店内がザワつき始める。場所柄、喧嘩のひとつやふたつ、あったっておかしくはないのだが、店のすぐそばで起こっているのは間違いない。
「えーやだ、怖い」
「店の中までは来ないだろ」
「……英語かな?外国の人?」
怒声が日本語ではないことまで分かる距離だ。動揺する客の様子に、大将が眉をひそめている。営業妨害にもなりかねない大きな声だし、外国人ならきっと体格も良いに違いない。気が荒かったりしたら、一歩店を出ると巻き込まれてしまいかねない。警察、呼んだ方が良いんじゃないかな。
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