第5章

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出先で農家の余り物の食材や資材を調達し、ほとんどサバイバルの様相で行う野営は、女性配信者にも関わらず流行りのギアやお洒落な料理とは無縁だ。SDGsですねというコメントが付くことが増えたので、自らのSNSでも SDGsのハッシュタグを付けるようになった。そこからのスカウトで農水省の職員という肩書きまで手に入れた夏帆は、施設育ちの自分の境遇を振り返り、感慨に浸った。 「私は自力で今を掴んだ」 誰にも邪魔されず、自分で手に入れた人生を自分の思い通りに全うすることだけが、夏帆の目標だった。 次の任務地は大陸の真ん中辺り。サバンナかな。野生動物とのコミュニケーションは、そこまで得意ではない。愛玩動物とは違う。立つ前に成世に教えてもらおう。生き物全般を懐かせてしまう手練れの同僚のことを考えながら、夏帆は再び液晶画面を落とした。 「トム、今日は早く帰るから良い子にしててね」 足元にまとわりつく愛猫の頭をくるりと撫でて、夏帆は家を出た。長期不在の間の世話は、ペットシッターにお願いすることにしている。シッター代は、もちろん国家の経費だ。
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