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「あ、どうもありがとうございます。三ヶ島です」
立ち上がり、礼儀正しくお辞儀した成世は、差し出された手を握るべきか迷っているようだった。引っ込めろとばかりに、無意識に大和は林の腕を掴んだ。
「あーうん。お邪魔しちゃダメだよな。すんません、ごゆっくり!」
林は気の良い男だ。大和の行動に気分を害した様子もなく、頭を掻いて席に戻る。そうだ、邪魔だよな。前々から予約してまでここに連れてくる女性なんて、恋人かそれに近い存在に違いない。成世にそういう相手が居たなんて知らなかった。大和は思わずため息をついた。
「ミカちゃんも男だったんだな」
「あーそうね」
「何?不機嫌?」
「や、そんなことない」
今の自分が不機嫌だと受け取られるなら、そうなのかもしれない。背後の成世が、連れの女性を交えて大将と会話しているようだったが、大和はあえて耳を塞いだ。
「牛肉、しっかり焼いてあるのにやわらかいな」
「だな」
「誘ってくれてありがとな」
「ああ」
饒舌な林に対して、口数の減った大和。
「何よ。ミカちゃんに彼女がいたのがそんなにショック?」
「はぁ?ちげーよ」
思わず強めの不機嫌を表現してしまってから、大和は後悔した。これじゃ、そうだと認めてるようなものじゃないか。
そうか、ショックだったのか俺は。自分の知らない成世が後ろで笑っている。その重苦しさで、やわらかいはずの肉が喉に詰まりそうだった。
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