第1章

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これまでも大和は、客のバックグラウンドを見ながら仕事をしてきた。そのために得た信頼だとか高評価の上に今があると自負しているので、初対面では相手を隈なく観察することにしている。が、あまり見過ぎていても不審がられる。 「早速ですが三ヶ島さん、車の調子が悪くなったのはいつ頃ですか?」 「えーと、1ヶ月前ぐらいかな?毎回営業終わりに近くなると、異音がするようになって……」 自然な流れで大和は仕事を始めた。まずはひとつひとつ相手に聞きながらの確認作業。どこに不調の原因があるのかを探っていく。車両のプロではないはずの担当者だが、予め下調べしているのか、大和の見たい箇所を的確に案内してくれる。なるほど、これは仕事ができる。 「……大体わかりました。三ヶ島さんのおかげでスムーズに作業が進められそうです」 「えっ、俺……いや私は何も」 素直に相手をリスペクトする言葉をかけただけだったのだが、思いのほか成世は焦った様子を見せた。
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