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「……帰るか」
「ん」
短い答えとともに成世は立ち上がり、身体に付着した砂を払った。宿泊先のホテルは、徒歩ですぐの距離だ。大和と並んで歩く道程、成世の脳内は忙しかった。
チェックインした時は何とも思わなかったツインルームで、交互にシャワーを浴びたら、食事に出よう。軽く酒を飲みたい。軽く、だ。シラフでは大和に向き合える気がしないし、泥酔したら自分が何をするかわからない。
「……成世、あのさ」
目的の建物が見えてきたところで、大和が口を開いた。
「こんなこと前もって言うのもアレなんだけど」
「なに?」
「そういうのは、日本に帰ってからにしようか」
「そういうのって……あ」
「これは俺自身への宣言。しとかなきゃ、さっきみたいに歯止めが利かなくなるからさ」
苦笑いの大和に、別に利かなくても俺は良いんだけどな、とは言えなかった。代わりに成世は、大和の腕にそっと肩を触れさせてみる。
「お前のこと、大事にしたいから」
「大和……」
「だから、あんま煽んないでな?」
大事に、か。そうやって言葉にしてくれる大和が好きだ。安心する。信じられる。
「わかった。俺も我慢する」
歯止めが利かなくなるのは自分もだと、成世は暗に告げた。大和の大きな手のひらが、頭に乗せられる。この感覚、心地良いな。好きな人と同じ想いでいられる幸せに浸りながら、成世はツインルームのロックを開けた。
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