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「乃愛……」
達した後、彼は満足げに穏やかな笑みを浮かべて、私に優しく口づけてくれる。
「やばいな。中でイッちゃいそうだった」
「もう! びっくりするじゃない」
いたずらっ子のように笑う彼に、私も笑顔を返す。
でも、心の中ではいつもチクリと、胸に刺さる痛みを感じた。
そこまで言う癖に、どうして中に出さないんだろう?
答えは聞くまでもない。妊娠したら困るからだ。
だったらそもそも最初から避妊すべきだって言われるかもしれない。コンドームをつけろ、と。彼がつけないのであれば、女である私自身の口から言うべきだ、と。
でも最初からつけないでこの関係が始まってしまった以上、今更つけようと言うのはお互いに気が引けた。
ある意味ではつけない事こそが、彼と私との間における数少ない愛情表現の中の一つであり、確認の方法だった。
今さらつけようと言い出すのは、愛が冷めてきたと言うのと同意なようにも感じられた。
始まった時から、いつか終わらなければならない関係だから。
そもそも始まってはいけない関係だったのだ。
わかっているからこそ、私たちはいつもこの愛が現在進行形である事を確認し、証明し合わなければいられなかった。
仮にほんの些細な事柄であったとしても、下降線を辿り始めているなんて認める訳には行かなかった。
だから私達は、常にお互いが相手をより以上に愛していると、より大きなリスクさえも恐れないと、まるでチキンレースにも似た我慢比べを続けなければならなかった。
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