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「オーダーお願いします!」  デシャップの乃愛に伝票を渡しつつ、並んだパスタの皿を手に取る。アラビアータとゴルゴンゾーラ。伝票を確認するまでもなく、四番テーブルのものだと即座に身体が反応する。 「陽君……あ」  キッチンを飛び出した瞬間、ドリンクカウンターの有希さんの救いを求めるような視線に気づいた……ものの、俺の手がパスタの皿で埋まっているのを見て、有希さんは残念そうに口を結んだ。  カウンターには完成したデザートの皿が並んで、運ばれるのを待つ渋滞状態だった。運んで貰えない事には次の皿に取り掛かれないので、困っているのだ。  俺は口パクで「すぐ行く」と伝えた。有希さんは笑顔を返してくれる。  急いでるのを悟られないよう、極力平静を装いながら四番テーブルに向かい、 「お待たせいたしました。サルシッチャ入りペンネアラビアータと磯海苔とゴルゴンゾーラのクリームソースでございます」  パスタを提供。一目散にドリンクカウンターにとって返す、が――、 「十二番テーブルね。オッケー」  俺が運ぼうと思っていたデザートは、まさに今、琴ちゃんが持って行こうとするところだった。 「ざーんねん」  擦れ違い様、琴ちゃんは冷やかすように笑う。 「ありがとう。琴が持って行ってくれたよ」  抗議の目を向ける俺に、有希さんは見たそのままを報告した。畜生。せっかく有希さんにいい所を見せてやろうと思ったのに。  そう惜しむ間もなく、 「陽、八番オーダー」 「うぃっす」  キッチンから出てきた久坂マネージャーに促されて、俺は笑顔で客席を振り返った。
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