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 ランチタイムは戦争だ。  十一時半のオープンと同時にあっという間に客席はいっぱいになり、オーダーとサービス、バッシングで息つく暇もなくなる。十四時半まで三時間のランチタイムの間に、十五個のテーブルは平均二回転半する。片づけた先からすぐに次の客を案内しなければならない。  僅か三時間に百人近い人数を迎えていれば、中には面倒は客もいて大変な思いをする事も少なくない。また、戦場と化したキッチンから罵声を浴びせられる事も、しょっちゅうだ。一日中立ちっぱなし、歩きっぱなしの仕事が続くし、レストランの仕事は辛い事ばかりだ。その一方で、それなりにやりがいもあったりする。  一緒に働いている仲間の阿吽の呼吸を感じられた時には、ゲームでコンボが決まったような爽快感が得られるし、常に客の先を読む必要があるから、狙い通りに進んだ時には強敵を倒したような達成感が得られる。  そろそろ食べ終わるだろうとキッチンに次の料理のコールを掛けたものの、肝心の客がなかなか食べ進まない。そうこうしている内にコールした料理が出来上がってしまい、どうしたものかと迷いながら運んでいくと――ちょうど他のスタッフが前の皿を下げるところだったり。そんな時は最高にドンピシャのタイミングで必殺技が決まったかのような気分だ。食べ終わって皿が下げられた次の瞬間に次の料理が供されるのだから、客もまた驚きの表情を見せる。そんな繰り返しが「素晴らしい店ね」というお褒めの言葉に繋がり、リピーターが生まれていく。  そんな楽しみもあるが――俺にとって一番の楽しみは、有希さんの存在だった。
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