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 鈴木有希さんは二十九歳。俺よりも十歳近く年上だ。基本的には日勤のみの為、ランチタイムでしか一緒に働く事はない。  元々はオレよりも先にこの店、『フィオーレ』で働いていた。初めてアルバイトとして入った当時、俺に色々と親切に教えてくれた――のは琴ちゃんこと新山琴恵さんで、有希さんはそれをちょっと距離を置いて見ている感じだった。  琴ちゃんは有希さんより一つ歳下の二十八歳。二人の子持ち。同じく日勤でランチタイムだけの勤務だった。有希さんと琴ちゃんはちょっとだけ有希さんが先に入ったけれど、ほぼ同時期に働き始めたのだという。齢が近い事もあって、仕事以外でも仲良くしているそうだ。  明るくサバサバした性格の琴ちゃんとは違って、有希さんは常に一歩引いて見えた。ランチタイムが過ぎてディナーまでのアイドルタイムに入ると、三人で話しながら片づけや夜の準備をする機会も多かったけれど、直接話すのは専ら俺と琴ちゃんで、俺と有希さんは琴ちゃんという通訳を介して会話するような、そんな関係だった。  ……にも関わらず、俺は初めて見た時から有希さんに心を奪われてしまっていた。完全に、自分でも呆れるぐらいの一目惚れだった。大げさかもしれないけれど、有希さんを一目見た瞬間、この世に生まれて来たのはこの人と出会う為だったと確信に似た思いを抱く程の衝撃が、俺の胸を貫いた。
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