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確かに、国語は比較的得意な子供だった私も、読書感想文はそんなに得意ではなかった気がする。
自分が小学校の時は、夏休み前に読む本を決めてタイトルを先生に提出しなければいけなかったのだが。私が読みたいタイプの本は、悉く先生に却下されてしまったのだった。
子供の頃から文字を読むのは好きだったし、大人が読めるような漢字も読めたタイプである。だから、シャーロックホームズシリーズとか、明智小五郎とか、そういうミステリーを読むことが多かったのだ。特に、少年探偵団シリーズは児童向けの本もたくさん出ていて読みやすかったというのもある。
ところが、私がそういう本のタイトルを提出すると、悉く担任に却下されてしまったのだ。言われることは大抵同じだった。
『ねえ大島さん。もっとほら、優しいお話とか、可愛いお話とか……子供らしい話を選んだらどう?』
どうにも。大人は“子供に読ませたい本”や“子供に勧めたい本”がガッチガチに決まっていることが多いらしい。特に教師というものはそう。
人がごろごろ死ぬような殺人事件の話とか、オバケが出てきて呪いで人を殺していく話とか、感動要素がないミステリーとか。そういうものは読書感想文には相応しくないと思っていたようだった。
それが、私は本当に苦手だったのである。
夫が言っている通りだ。当時の私は、面白い話=スリルのある話だと思っていた。恐ろしい怪物が襲ってくるわけでもなく、幽霊が出るわけでもなく、殺人事件が起きるでもなく、ヒーローや探偵がいるわけでもなく異世界に行くわけでもない。ただ子供達が遊んで、恋をして、親に叱られて、みたいないわゆる青春ジャンルやヒューマンドラマのどこに面白味があるんだと感じていたのだった。
好きでもなんでもない本を読んで、しかもそれにポジティブな感想を書けと強要される。少なくとも私の頃の読書感想文とはそういうやつで、はっきり言ってあれは“本が嫌いになってしまう子供を増やすだけのものでは”とも思ったほどである。実際、彼等が“これを読め”といって押し付けてきたタイプの文学を面白いと思えるようになったのは、随分年を重ねてからのことだった気がするから。
「……確かに、作文そのものが苦手というより、作文で書かされるお題が苦手って子は多いのかも」
ふむ、と私は顎に手を当てて考える。
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