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「書いてくれるかもだよ!そうだなあ、じゃああの子の話とかどう?」
彼はテレビの傍に行くと、プリンのぬいぐるみを抱え上げた。
「ちょっと最近、ポケモンのアニメ見れてないんだけどさ。……確かアニメのプリンって、“歌うのが大好き。だから自分の歌を最後までみんなに聞いて欲しいのに、聞いた奴らが眠っちゃうから聞いてもらえない。それが悔しくて、眠った奴らの顔に落書きしちゃう”ポケモンじゃなかったっけ?」
さすがはオタク、よく覚えてる。私は苦笑してプリンを見つめた。
このぬいぐるみのプリンは、手にマイクを持っている。アニメでは、マイクの先端を引っこ抜くとサインペンが出てくる仕様になっているのだ。プリンは自分の歌で眠った相手の顔に、そのサインペンで落書きをしてしまうのである。
そもそもの問題として、プリンの歌はゲーム上では“必殺技”の一つになっていて、歌う、は相手を眠らせる効果を持つ攻撃となっている。ゆえに、周囲の者達が眠ってしまうのは必然なのだが。
「プリンは、歌を最後まで聞いてほしい。でも周りの奴らが眠っちゃうせいで聞いて貰えないのが悲しい。どうすればそれを解決できると思いますか?とか。そういうお題いいと思うんだよなあ」
「採用。それでいきましょう」
悪くない。
プリンが出てきたシリーズはかなり昔の話が多いが、それでも昔の映像を引っ張り出してきて授業で流せばみんな興味を持ってくれることだろう。
そして、単にポケモンというアニメの面白さとかそういうのではなく、ちゃんと道徳的要素も兼ね備えたお題となっている。プリンの気持ちと、プリンの歌を聞く人達の気持ちになって考えること。そして、解決策を見出すべく問題と真正面から向き合うこと。これは、人間としてとても大切なことであるはずだ。
「ちなみに……」
夫からプリンのぬいぐるみを受け取ったところで、私は彼の顔を見上げて言う。
「雅哉さんなら、その問題をどう解決するの?参考までに教えてくれない?」
「おっと、こっちに飛んできたか」
彼は苦笑いをしてプリンの頭を撫でた。
「んー、じゃあちょっと時間くれる?俺もレポート書くわ、暇だし」
作文は苦手な子供だったという夫。
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