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よく通って、胸の奥をなでるような声で彼が一曲を歌い終えると、私は彼の両手を握った。
「……上手だね! オットー君の歌も声も大好き〜〜」
オットー「あははは……嬉しいなぁ。……父さんが倒れちゃってさ、母さんも病気がちで……。で……仕方なく、歌手になるのを諦めて、父さんの後を継ぐことにしたんだよ」
私「そ〜なんだ……。でも、私は嬉しいよ〜。オットー君がこの付近を見回ってくれているから、安心だし……。今みたいに会えるもの〜」
オットー「……ありがとう。俺が歌を聞かせたのは、父さんと母さんと、あとはアイリカだけだなぁ」
アイリカ「えへへへへ〜〜そーなの?」
オットー「そうそう。……不思議と何でも話せるね……俺たちって」
アイリカ「ね〜〜」
森の中を二人で散策する私とオットー君は手をつないで歩いた。
ドレス姿で屋敷から出てくる私に彼は気を遣ってくれていた。
草木が生い茂ってはいないところを選んで歩いてくれるのだ。
私と彼はたわいない話をして、クスクス笑ったりしながら、ゆっくり森林を進んだ。
1歳年下の彼に私は何も隠さずに話せた。
境遇ゆえ、私も彼も孤独だった。
「……私の母上がね、金髪なの。けど、ほら……私の髪って……父上と同じで、黒色でしょ。……母上と同じ色の方が良かったかな〜って……」
私が以前から感じていたことを明かすと、「……お父上やお母上から、そう言われてるの?」と、彼は聞いてきた。
「う、ううん。……私が子供の頃から、思ってるだけで……」
私は首を横に振った。
「……このままでいいよ。俺はアイリカの髪が好きだよ。……こんなにサラサラで綺麗じゃないか」
オットー君はそっと私の髪の毛を触り、笑ってくれた。
「…………」大好きな彼の笑顔に私は胸が高鳴ってきた。
「……そのままのアイリカがいい。……そのままでいい。変わらなくていいんだ」
真っ直ぐな瞳でオットー君に伝えられた私は「はっ……はぃ……」とだけ返し、真っ赤になって首を縦に振った。
…………もじもじしながらも幸せを感じる私。
…………照れながら手を引いてくれる彼。
そんな状態で心が通じ合ってしまった私と彼はどうでもいいことを話しつつ、何種類かの草花が可憐に咲いてる場所まで来た。
「……いつ来ても、きれいだね……」
はにかんだ私がぼそっと言うと、オットーくんは「……ああ」とうなずき、そして続けた。
「……では、ここでもう一曲歌ってみようか。さっきのとは、別の歌を」と。
「え!? ……わ〜〜いッ!! お願いしまーす!」
喜ぶ私を見て、微笑んだ彼は息を吸い、草花や木々の緑を前に歌い始めた。
頭上を小鳥が飛んでいく。
優しい風の音に彼の声が乗り、耳へと心地よく響いてくる。
オットー「…………ねぇ、見てみて。
あの、空を。
どうして、あんなに透き通っているのか、あなたは知ってる?
見てみて、あの、山を。
どうして、あんなに大きいのか、あなたは知ってる?
見てみて、あの、海を。
どうして、あんなに広いのか、あなたは知ってる?
……ねぇ、知ってる?
あの空がなくなったら、どうなるのかを。
ねぇ、知ってる?
あの山が崩れたら、どうなるのかを。
ねぇ、知ってる?
あの海が干上がったら、どうなるのかを。
……ねぇ、見てみて、咲いている花たちを。
ねぇ、見てみて、飛んでゆく鳥たちを。
あなたは知ってる?
なぜ咲いているか、どこへ飛んでゆくのかを。
もし知ってるなら、わたしに教えて。
……ねぇ、見てみて、あなたの隣りにいるわたしの瞳を。
あなたがいなかったら、どうなるのか、知ってる?
わたしの瞳を見て、わたしに教えて。
ただ見て、見て教えて、わたしの瞳に映るあなた…………」
弱い風に花たちが、かすかに揺れる。
私は感極まってしまい、彼にくっついた。
「…………。……ふ、ぅぅぅ……毎日、毎日ぃ……泣いてるぅ、と、思うぅ……」
初めて男性の胸に顔を埋めた私を彼は静かに抱きしめてくれた。
「…………うん。そうだな……俺も……きっと泣いてると思う……好きだよ、アイリカ……」
彼に耳元でささやかれるや、私は身体の力が抜けてゆき、それが純粋に嬉しかった。
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