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1.穴場
アウトプットのためにはインプットは不可欠だ。
そうは思っている。けれどいかんせん、金がない。
「なんでうちの高校、バイト禁止かね……」
ぐったりと言いつつ、ケイはスマホを取り出す。作曲アプリを立ち上げ、保存していた自作の曲をセレクトし、タップする。
このアプリも音楽を作り始めてまだ日が浅いからあまり使い慣れているとは言えないが、少しずつ使い勝手はわかってきた。
とはいえ。
「やっぱパソコンほしいわ……。バスドラムががつんとこないのとかなんか違う気がする」
「だったらバンド組めばいいじゃん。ボーカルも入れたいんでしょ? 生音に勝るものなし! とかなんとか言ってたのケイじゃなかったっけ? やんないの? バンド」
「バンドは人間関係面倒そうだからなあ……。その点、これだと一人でできるから気が楽」
「うーわ。出たよ。ケイって見た目派手なのに中身陰キャだよね」
同じクラスのアンリにずけずけと言われ、ケイは顔をしかめる。悔しいが、言い返せない。
だって、もともと人付き合いが得意ではない自分にバンド活動は確実に向いていない。
……と落ち込むことばっかりではあるのだが、そもそも焦ったところでどうにかなるものではない。そんなときはインプットがいい。できればライブにでも足を運びたいのだが。
「金ないんだよな〜」
と、ここに戻って来る。
「ああ、生歌が恋しい」
「駅前で歌ってる人たちいるじゃん」
「クオリティがいまいち」
「えっらそー」
アンリが鼻の頭にしわを寄せて舌を出す。だが実際のところ、自分達が住んでいる田舎町だとバンドの数も限られてくる。最近駅前に現れるのは地元バンドの桃山マジョリティだ。地元愛に溢れる歌詞は悪くないけれど、ケイが求める方向とは違う気がする。
「あのさあ、そしたらあたし、一個すっごい穴場スポット知ってるんだけど」
肩を落としつつイヤホンを耳にねじ込もうとしたケイの手を、アンリが引っ掴んで言ったのはそのときだった。
「穴場?」
中途半端に片方だけイヤホンをした状態で問い返すと、うん、とアンリは頷いて笑う。
「行ってみる?」
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