0人が本棚に入れています
本棚に追加
軽快なBGM が始まった。Mr.✕の登場だ。シルクハットに燕尾服、金色の仮面。背も高くすらりとしている。Mr.✕はさっそく舞台を降りて協力者の物色を始めた。二つ目のテーブルで外国人の女性の手を取った。彼女は見事なスタイルだった。体の線がくっきりわかるサテンのドレスを纏っている。
Mr.✕が僕たちのテーブルに近寄ると僕と目が合った。僕がどぎまぎして思わず目をそらした途端、Mr.✕は僕の手首を力強く両手で覆っていた。
僕たち二人はMr.✕に導かれ壇上に並んで立って拍手を受けた。
するとMr.✕が僕と彼女を交互に見つめ、僕たちの手の辺りを大袈裟なジェスチャーで順番に指差し始めた。僕が慌てて左手首を見ると腕時計が消えていた。結婚した時の愛美からプレゼントだ。
外国人の女性は目を落として持っていたポーチのあたりを見て、「oh-No!」と派手に驚いた。その瞬間、Mr.✕が観客に向かって不意に両手を掲げた。おもむろに広げた左手には僕の腕時計が、右手には彼女のブレスレットが握られていた。
静かなどよめき、少し遅れてどっと拍手が沸いた。
愛美は配膳されたデザートを見て微笑んでいる。
Mr.✕はブレスレットを外国人の女性へ返しながらその手の甲に軽くキス。次いでMr.✕が僕を見たので僕が思わず手を伸ばすとMr.✕は時計を自分の手につけてしまった。
一瞬場の空気が固まった。やがて笑いがさざ波のように揺らめいて行った。
愛美が美味しそうにデザートのクレームカラメルを頬張っている。
最初のコメントを投稿しよう!