記念日

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 BGMがロック調に変わった。  Mr.✕は軽やかに舞台袖からパイプ椅子を三つ持ってきた。座る側を客席に向けて等間隔に一列に揃えた。Mr.✕がリズムにのって踊るように外国人の女性の手を取った。彼女に三つの椅子をまたぐ形で仰向けに寝るよう促す。足首より下が左の椅子に、お尻が真ん中の椅子に、肩から上が右の椅子にあたる姿勢だった。  僕の位置から横になった女性の姿がちらりと見える。ドレスの上からでもバキバキな腹筋が手に取るようにわかった。  Mr.✕が軽快なステップで椅子の後ろ側に回って真ん中の椅子のあたりに立った。「ドドドドドドド」BGMのドラムがピッチを早めクライマックスを煽り出す。Mr.✕が女性のお腹に手をかざして気合を入れた。 「イエィ」掛け声と共に真ん中の椅子だけを素早く後ろに引いた。  女性は両端の椅子だけできれいに一直線に仰向けのままだった。顔を客席に向け手を振り微笑んですらいる。Mr.✕が手を差し伸べ女性がゆっくり立ち上がると、万雷の拍手だった。  今度は僕の番だった。僕も同じように三つの椅子の三点で仰向けに寝かされた。BGMのドラムが聴こえた途端、Mr.✕が唐突に真ん中の椅子を引いた。僕は派手に床に転げ落ちていた。どっと大きな笑いが起きた。僕は痛いやら恥ずかしいやらいたたまれない。  愛美はナプキンで丁寧に口を拭っている。
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