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気づけば、そんな言葉をかけている。当然、相手は驚き振り返り、目が合うと、その碧眼をパチクリさせて「え……」と声を漏らした。
「勇者と握手がしたいので是非、何卒、お頼み申す」
深々と頭を下げて右手を差し出す。
そう、推しとはこのゲームの主人公、勇者イグニスなのである。
幾度となくおまえとこの世界を周回したか、もう数えきれない。ソウルメイトな気持ちで親近感があるのはこちらだけ。
「え、と……」
そりゃあ相手は怯える。変質者のそれだもの。
「いきなりすいませんねー、でも、生見で出会えた記念にやはり握手は鉄板かなって」
「……」
「んん?え、シカト?勇者が?ガチ?そんな性格悪いの?やば、それはないな。うそだ!」
困ったように微笑んで何もアクションを返さないイグニスに首を傾げる。んん?なぜ?ほわい?そんな奥ゆかしいキャラだったか……?
あ、ちげーわ。プレイしてたの自分だわ。こいつ動かしてたの我だわ。
そうである。プレイヤーは勇者イグニスを動かす。自分を乗り移らせるように。だからなのだろう。目の前のイグニスの極端なほどの受け身体質は。
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