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45 ダリア
それから3か月後。
ダリウスの両親が亡くなってからは半年後。
テティアとダリウスは無事親しい仲間内での結婚式を挙げた。
テティアの花嫁姿にダリスウが式の開始時間を遅らせそうになり、ダリスウの盛装にテティアが眩暈を起こし掛けた。
田舎から呼んだ両親は美しく成長した娘の晴れやかな姿に泣き通し、娘の幸せを約束するダリウスに感謝し、王都の観光をたっぷりと楽しんでから帰って行った。
少人数のシンプルな結婚式と思いきや、そこかしこに施されたダリウスのクラウン・マジックによる演出のせいで、騒ぎを聞きつけた赤の他人が霊殿の外に人だかりを作り、外に出たテティアらは盛大に驚き、盛大に笑った。
テティアの友人として司書仲間と館長が出席し、ダリウスの友人としてリディアと騎士団長ヴェルナー夫妻、そしてまだ1歳にもならない2人の息子の守護者。クァナリーには「来たいのなら勝手にどうぞ」と言ったらしく、正式な招待状を持つカーラ以外はぎゅうぎゅうになって後ろの方で立ち見席と化していた。
受け取った者が次に幸せを掴む者となる、コイントス。
これは式の間花嫁がそっと胸元にしまっておくもので、新郎が新婦の胸元に手を突っ込んで取り出すことで異様に盛り上がる庶民の間で定番の儀式だ。
テティアの発案でやることになり、式の後に全員外に出る。
ダリウスがオフショルダーのテティアのドレスの胸元にわざとゆっくり手を滑り込ませると、男性からは熱狂的な低い声が、女性からは悲鳴のような歓声が上がる。
発案しておきながら、ダリウスがあんまりのんびりと探すものだから真っ赤になったテティアの顔を、後ろから振り向かせキスをして隠す。当然場の盛り上がりは無関係な通行人も併せて最高潮に達した。
やっと発見されたコインを、ダリウスが勢いよく上に投げる。
皆が皆一斉に手を差し出すと、落ちる瞬間に大量の光のコインが混ざり本物を見失ってしまった。
盛大なブーイングを起こした本人であるダリウスは花嫁を抱えたまま笑っている。
抱えられたテティアもまた、光のコインに手を翳しながら笑った。
「あああ!」
大声を上げたのはリディア。
「うちの子が取ってたわ」
リディアの腕の中でご機嫌なガーネは、不器用な手にコインを握り、まだほんの少ししか生えていない歯を見せて笑っていた。
赤子には誰も勝てず皆が笑う中、テティアがこっそりダリウスに囁いた。
「私も早く、赤ちゃん欲しいな」
「同感です」
この時彼女はまだ気づいていなかったが、その望みは挙式から約半年後に叶う事となる。
「数は多いですが恐れることはありません。闇は我々にも味方してくれます」
挙式から約半年後、ダリウスは封印の邪霊と戦った後初の大規模な邪霊戦の只中にいた。
クァナリーと崇拝者の攻防が続く中、徐々に小型の邪霊が姿を現すようになっていた。
ダリウスの仕事ももしかしたら減るのではと思ったが、結局邪な思いを抱く者など次々と現れる。
当初闇が精霊化したことで邪霊も出現しないことが期待されたが、それを利用しようとする人間がいる以上無理な話だったようだ。
今日ここには5体の小型邪霊が集まっている。
大型は無理でも、小型を複数召喚することに成功した崇拝者によって、王都から少し離れた所にある丘陵地は穢され始めていた。
しかもここは極光のベネスの領地。当然彼もここへ来ていた。
ちなみにベネスは封印の邪霊戦以降、ダリウスに立てつくことは一切なくなった。素直ではないので態度は相変わらずだが、星辰と極光というたった1つ位が落ちただけなのに力が足元にも及ばないことをいい加減悟ったようだった。
そもそもリディアも「いつか倒す」とずっと言っているが、同じ星辰でもダリウスの方が遥かに強い、というより力の扱いが上手い。もう一つ上の勲章を作らねば足りないのではと思うほどだ。
テティアはどうしてもベネスが嫌いだが、ダリウスは個人の好き嫌いはさておき、副団長としての仕事っぷりに文句はなく、クァナリーとしてはもう信用しているようだった。
馬鹿な考えさえ持たなければ、やはり勲章持ちなだけはあって優秀なことに間違いはないからだ。今では何も言わずとも的確なサポートをしてくる。
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