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「そう言えばあなたの言ういやらしいキスとそうでないキスの違いを聞いていませんでした。今なら教えてくれますね?」
「そう言うのは忘れていいんですよ……」
「是非知りたいですね。あなたはどんなキスを“いやらしい”と思うのですか?」
彼はソファまでテティアを連れてくると膝の上に座らせた。
どうやらこの体制が気に入ったらしく、最近やたらこの状態でキスや軽い触れ合いをされることが多い。
テティアとしては、尻の下にすぐダリウスのものがあるこの体制は恥ずかしくて仕方ないのだが。
少し低い声で、誘うように「さあ教えて?」と言われてしまい、テティアの鼓動が駆け足を始める。
テティアは戸惑いつつも、今しがたダリウスがしたように静かに唇を合わせた。
少ししてから身を離すが、テティアの中にも熱がくすぶりかけているのか、これでは物足りない。
「今のは?」
「愛情表現のキスです……」
「他には?」
もう1度しっとりと唇を重ね、ちろっと子猫のように舌先が触れる。
ダリウスはこれをされるとおねだりをしているのかと思い、キスを深めたくなってしまうのだが。
「これも愛情表現?」
テティアがこくっと頷く。
「ではいやらしいキスとは?」
テティアは荒い呼吸を1つすると、また唇を合わせちろちろと場所を確認するように舌先でくすぐっては、そこを小さく吸い上げてくる。動かずに享受しているだけと言うのもなかなか辛くなってきた。
「もっといやらしいのがあるでしょう?」
ほとんど唇を離さないままそう言うと、今度は一生懸命その舌でダリウスの舌を探し始めた。
迎え入れ、絡めてやる。
テティアの口から吐息が漏れた。
「いやらしいキスはお好きですか?」
「……うん」
短い答えが蕩けた響きで返って来る。
そんな甘えた声で返事をされては、積み重ねてきた我慢も限界を迎えてしまいそうだった。
「あ……ちょっと!?」
「もう少しいやらしく触れ合いましょうか」
突然座った姿勢のまま抱き上げられ、テティアは慌ててダリウスの首にしがみついた。
彼の腰に絡めた足に落ちないように力を入れると、なんだか腰の奥がきゅっと疼くような感覚があった。
「あ……」
そのままベッドの下ろされ、組み敷かれてしまう。
いたずらっぽい目は、どこまで本気なのかよく分からない。
彼は邪魔なのか眼鏡を外すと、サイドボードに置いた。
「そうだ。あなた今日はまだ湯上りの香油を塗っていないでしょう」
そう言って首の辺りに顔を寄せスンと香りを嗅ぐ。
ほのかな石鹸の香りはするものの、いつものあの花のような香りはない。
「別に1日くらい平気だし……」
なんとなく不穏な空気を感じ、目を逸らすとそう言った。声が少し震えてしまう。
「そうはいきません。愛する女性にはいつも健やかでいて欲しいですからね」
そう言うと彼は鏡台に置いてあったいつものオイルを手に戻って来た。
ギシっとベッドを軋ませ、テティアの真横に腰掛ける。
「いつも思っていたのですよ。私はあなたに塗ってもらうのに、あなたには塗らせてもらえないのかと」
「それは恥ずかしすぎます」
「でも私はあなたの夫となる人間ですよ。駄目ですか?」
「じゃ、じゃあ、背中だけ。背中なら対等じゃないですか?」
「では背中から……脱いで下さい?」
「後ろ、向いててくれませんか……」
ダリウスが素直に後ろを向いてくれる。
僅かに衣擦れの音をさせると、テティアはすぐベッドにうつ伏せになった。
「お願いします……」
蓋を取る音が聞こえる。
ダリウスの動く気配のあと、温かい手が素肌の背中に乗せられた。
いつもアリヤにしてもらう時は多少恥ずかしいかなくらいで済むと言うのに、そこからたったひと撫でされただけで体がぴくっと動いてしまった。
ダリウスは特に何も言わない。でもその反応にふふっと笑ったようだった。
「手入れをしているからでしょうか。綺麗な肌ですよ。滑らかで……華奢な背中ですね。それに細い腰。とても誘われます」
「あんまり言わないで……」
ダリウスのオイルで滑る手が背中をゆっくり撫でていく。
アリヤの触れ方とは全く違う、内側の熱を引き出されてしまいそうな触れ方。
大きく、少し硬質な感触は、嫌でもダリウスの手が撫でまわしているのを意識させてしまう。
その手が背筋をなぞり、腰の窪地で止まった。
際どい部分で手が止まり、気が気ではない。
「しかしなぜ夜着の下にドロワーズを? これはいらないでしょう」
「それは、だって、一緒に眠るのに薄い夜着1枚じゃ心許なくて……」
「それは残念……あなたのまろやかな尻にも触れたかったのですが」
そう言いながら、指先が少しドロワーズの下に入り込む。
「や……だめ……」
テティアが僅かに身をよじる。
それはダリウスの手を追い出すことは出来ずに、ただ彼に興奮材料の1つを差し出したに過ぎなかった。
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