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「ダリウスさん」
「父の中で私は騎士なようです。謝罪の意を抱えていたとは知りませんでした」
「騎士なダリウスさんもちょっと見てみたい気もします。きっとかっこいい……何してもかっこいいと思いますけど。……ご子息は謝罪の意を受け入れたんですね」
「父がその意志を持っているという事自体が私には衝撃でしたので。許す許さないという話でもないのですが、私はもうそこにわだかまりを感じません。それならもう後は両親にはただ穏やかにいて欲しいと思います。それが偽りの思い出であっても」
「忘れられてしまうのは寂しくないですか?」
両親が去った部屋の方を見ながらテティアがそう言う。
だが振り返ったダリウスの表情はそんな深刻さなどどこにもなかった。
「あまり。別の形とは言え私の存在は彼らの中にないわけではないですからね。それにあなたが傍にいるのに過去に囚われるなど勿体ない。見るべきは今でありその先です。そこには必ずあなたがいるのではないのですか」
テティアは「当然です」と言うと、いつものように寄り添う。
ダリウスもいつものように抱き寄せ、そして当然のようにキスをした。
慌ただしい滞在となったが、名残を惜しむ両親にしばしの間別れを告げると翌日には王都へと戻った。
そしてその次の週、いよいよクァナリー新組織の正式発表となる。
団長就任式の他、司書を辞めたテティアにも関わる重大発表がある。
それは、ダリウスが提案し承認されたばかりの新規部隊で、精霊術師団の下に組織された土壌回復隊の創設発表だ。
この日ダリウスはクァナリーの正装であるスカイブルーのローブと濃紺のサーコート。そしてテティアは新しく作られたレストーラーの正装、鮮やかな黄色のローブと若草色のサーコート。豊穣の願いを込め“黄金に揺れる麦”と“芽吹き”を合わせた色。王族の象徴である紫以外で、他の組織と被らない色ならなんでもいいとのことから、テティアが提案した色だ。クァナリーの傘下のため、形はクァナリーと同じ。
ダリウスが国王から団長を拝命し、そしてダリウスが副団長としてベネスと月虹よりロアンを任命する。
ベネスを指名した理由は派閥争いがあった時の対抗組織の筆頭だったため。彼を指名することで両者にわだかまりがないと言う意志表示を知らしめ、さらに団の風通しを良くする狙いがある。
邪霊戦以降彼は心を改めたようで、実際に副団長としての能力に問題を感じることはなかったのも理由の1つだった。
さらにリディアには技術指導員としての立場が任命される。
彼女はしばらくはクァナリーズに常駐することはないが、人材の育成のためにこの役職に就いた。
そして。
テティアはもう1人同じローブを着た女性と共にダリウスの前に並ぶ。
「――よってカーラ・フォルマーンをランド・レストーラーズの初代隊長とし、新しい部隊発展のため力を尽くしてくれることを期待します」
「謹んで拝命いたします」
団長であるダリウスの口上の後、麦の形を模ったバッヂが彼女の月虹勲章の隣に並んだ。
「そしてテティア・マーニシュ。あなたをその隊員として認め、カーラと共に部隊へ貢献することを願います」
「未熟ながら尽力致します」
テティアには王家の透かしが入った正式書類に国王とダリウスのサインが入った入隊証が渡された。
テティアが異常に緊張した式典の終了後、彼女もクァナリー本部に併設された部屋へと移動し、今度は堅苦しくないクァナリー同士の挨拶をするはずだった。
ところが式典から戻ったちょうどその時、ダリウスへ至急の通達がやって来る。
「ご領地より火急のお知らせです」
伝令から受け取った手紙には、ダリウスの両親が急に容体を悪化させた旨が書かれていた。
つい先週、比較的元気な姿を見たばかりだったのでさすがにダリウスでも驚きを隠せない。
「そんな……先週はあんな楽しそうにしていたのに」
「テティア、急ぎます。このまま向かいましょう」
彼らは既に迎えに来ていた馬車に着替えもしないまま乗ると、すぐに領地を目指して出発した。
馬車の中で、ダリウスよりも不安な表情を浮かべているテティアの手を握ると、「覚悟は出来ていました」とダリウスが言った。
「少々早いとは思いますが、もう食事量も減っていました。緩やかに死に向かい、それがとうとうやって来たのでしょう」
「やっとダリウスさん、打ち解けてお話できたのに」
「最後に打ち解けることが出来て幸いでした」
不安の中馬車は飛ばされ、数時間後ようやく到着したカントリーハウスでは、父と母が本人たちの希望により温室のカウチにほとんど横になるように座っていた。
2人は一見するとただそこで居眠りしているだけのように見える。
「ダリウス様がお帰りになられた後、お茶以外に口にされなくなりました。昨日はそのお茶すらも召し上がらず、今朝から起きている時間はほとんどございません。恐らく、今夜までには旅立たれるかと思います」
2人のカウチの前で主治医にそう説明される。
表情は穏やかなので、苦痛などはないようだった。
本当に、ただ午後の昼寝をしている。そんな雰囲気だった。
「ダリ……」
その時、ファーンの口から名を呼ぶ声が聞こえた。
テティアが駆け寄る。
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