44 結ばれる日

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「最近少し綺麗になってきた気がします」 「邪霊と戦うことも減ったせいでしょうか。痛むことも減りました」 「邪霊、あれから出ていないですけど、無くなったわけじゃないんですよね」 「はい。ですがランド・レストーラーが本格的に活躍出来るようになれば益々出現の機会は減ると思いますよ」  テティアはこの職の復活にあたり、土地の回復を実演して見せるためにごく小さな、まだ小屋1つ分程度の広さだが自分だけの力で回復している。  職の有用性、そして可能性を示すために、魔法素人だった彼女が実演して見せたのは大きい。 「せっかく憧れの人の隣で働けるんだから、私ももっと頑張らないと」 「夫の隣、ではなくですか?」 「スカイブルーは私には永遠に憧れなんですよ」  そう言いながらシャツを羽織らせると、ダリウスは前も止めずにそのまま膝の上にテティアを抱えた。 「では夫は?」  ダリウスが敢えて“私”ではなく“夫”と言ってくる。  そう言われる度にテティアに甘くもくすぐったい気持ちが溢れる。  だけど、わざわざそんな言い方してくるなんて。 「ダリウスさん、もしかして浮かれています?」 「当たり前でしょう。ずっと妻にと望んでいたのです。冷静でなどいられません」  至って普段通りに見えるのだが、ダリウスは眼鏡を取るとこつんとおでこを合わせて来た。 「分かっていませんね。出会った頃も可愛かったですが、今はそれに磨きがかかりどんどん美しい大人の女性へと変貌しているんですよ。テティアは随分私のことを持ち上げてくれますが、私だってただの男。出会った時のあの引き寄せられる笑顔はそのままに、そんなに綺麗になられては、焦がれる想いも募るというものです」 「そんな真顔で言われたら恥ずかしいです……」 「余裕が無いだけです」 「ダリウス……」  テティアが蕩けたように名前を呟くと、ダリウスはすぐ唇を重ねて来た。  余裕が無いと自分で言った通り、重ねた唇はすぐに吸い付き、味わうと言うより貪るように彼女の口内を乱した。  テティアの方も幾度となく重ねた口づけの中に、時折そんな荒いキスが混ざることを覚えていた。薄く開いた唇から彼の舌を招き入れると、吸われる刺激に甘い声を漏らしてしまう。  やがて彼女も角度を変えて口づけを交わす度に、舌を吸い、吸われ、思考が溶かされるままにキスを繰り返した。  深まるキスにダリウスの手も不埒な動きを始める。  体のラインを確かめるように、だけど核心に迫る部分は注意を払い、テティアの許可無しに勝手に触るようなことはしない。    2人ともようやく離れると、ダリウスは荒くなる呼吸を押し殺し、テティアは乱れた呼吸を隠すことも出来ないまま見つめ合った。 「もう少し触れても?」  素肌を味わいたくて、ダリウスの手がガウンにかかる。  テティアはきゅっと唇を結んでいるが抵抗する様子はなかった。  しゅるっと腰の結び目を解けば、滑らかなシルクのガウンがテティアのなだらかな肩から滑り落ちる。  大きく襟ぐりの開いた夜着の鎖骨のあたりを撫でながら彼女の様子を見る。  ぎゅっと目を閉じ首の方まで赤くなるのが初々しい。  今まで何度かこうして素肌に触れて来たが、今日はその数少ない触れ合いの中でも突出して反応が強い。  敏感な様子は、それだけでダリウスの期待値を上げてしまう。  夜着のリボンを解いてしまうか、それともこの可愛い首筋に吸い付くか……    ダリウスは熱い息を漏らすと柔らかな皮膚に唇を寄せた。ぴとっと張り付くと、味見でもするように舌先でなぞり、そのまま優しく吸い上げる。  テティアの口からも声にならない吐息が溢れた。  もっと肌を味わいたくて逃げそうになる彼女の背中を抱え、美味しい所でも探すかのように唇を這わせた。 「ん……ぁ……って……まってダリウス……」  服でも隠れないような場所に所有印を付けようとした時、テティアの手がダリウスの胸を押した。  焦り過ぎましたか……  いつもと何処か様子の違うテティアが、逸るダリウスの愛撫に怖気付いたのかもしれない。  痕をつけることを許されず、それでも彼は軽く吸い上げてから僅かに身を離した。 「嫌でしたか」  こうして少しずつ煽って行けば、彼女もやがて触れて来てくれるのではないかと期待したが。  夫婦という特別な関係になったことに柄にもなく舞い上がってしまい、どこかで進行速度を誤っただろうか。 「ちがうの……」  涙声にも聞こえるような細い声でそう言うと、おずおずと視線を合わせて来る。  その目にダリウスは息を飲んだ。  涙声ではない。熱に浮かされた声だ。   「いやじゃないの……」  押し返したダリウスの胸に置いた手を、そのまますすす、っと肩の方に動かした。  素肌を這うテティアの手は、ダリウスが彼女に不埒な触れ方をする時と同じ。  内側の熱を引き出そうとする、官能の予感。  やたらゆっくりと移動した柔らかな彼女の手は、そのまま肩にかかるダリウスのシャツを下に落とした。  腕に引っかかる様子が、かえって艶めかしい。  ダリウスは彼女が何か1歩踏み出そうとしてくれていることを察し、されるがままに動かなかった。
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