46 幸福は精霊のちみびき??

1/2

65人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ

46 幸福は精霊のちみびき??

「水の精霊(クァナ)、ミーニャよ。いのちのめざめをちみびき(・・・・)安らぎでみたすものよ。かのものをおんみの力でみたし、きずをいやしたまえ」 「ちがうよ。みちびき(・・・・)だよ」 「みびちき」 「み・ち・び・き」 「みちびき」 「そう。みちびき」  4歳の女の子が、クァナリーズ本部の端っこであまり歳の変わらない男の子から癒しの呪文を教わっている。呪文を教わっていると言うより、正しい言葉を教えてもらってるようだった。  赤茶けた艶やかな髪に、女の子にしては少しきつく見える切れ長の目はブルーグレー。ふさふさのまつ毛がそれを可愛い印象に変えてくれている。  意味を分かっているのか分かってないのか、子供特融の勘違いを連発しているが、6歳になったばかりの男の子によってようやく間違いが訂正された。  男の子は眩しい金髪に青い目。6歳にしては体格がしっかりしていた。 「おとうさまにみせてくる」 「じゃあぼくも父上のとこに行く」 「だめだよ、おかあさまにいわないと」 「じゃあダリアについていく」 「うん」  2人仲良く扉に向かうと、近くにいたクァナリーが微笑ましく見守りながら開けてくれた。 「ありがとう」 「ありがとう」 「いいえ、小さなクァナリーズ」  扉の向こうはまた別の部屋。  早口で話す女性の声が聞こえる。 「ぼくはクァナリーじゃない。騎士になるんだ」 「わたしはどっちもなる」 「よくばりだよ、ダリアは」 「どっちもかっこいい」  向かった先は団長室。  そこにはクァナリーズの団長と技術指導者が毎度おなじみの光景を繰り広げていた。 「だーかーらー。そうじゃないのよ、それじゃあ若い子たちはついて来てくれないわ」 「訓練に老いも若いもないでしょう」 「馬鹿ね。オジサンて言われたいの? まあ実際オジサンだけど。あのね。そうやってテティアみたいに理詰めでいたら飽きちゃうのよ。派手にどーんてしてばーんてして叩き込むのよ」 「それは私やあなたならいいでしょう。問題は年齢ではなく個々人に合わせたやり方。彼の場合はあなたの“どーん”や“ばーん”ではついて来ませんよ。……ダリア。いいことでもありましたか?」  ダリウスは父を見上げてにまーっと笑った愛娘を抱えると、前髪を避けて額にキスをする。 「ガーネ! あなたお父上の所にいたんじゃないの?」 「さっきこちらに遊びに来ました。また戻ろうとしたら、ダリアにかってに行っちゃいけないって言われてここに来ました」 「やーん。偉いわガーネ。今この分からず屋を説得したら私も一緒に父上の所に行くからね」  リディアは6歳児を抱っこする代わりに抱きしめると、頬に頬を寄せすりすりした。息子のガーネはやや恥ずかしそうにしている。 「おとうさま、わたし、ミーニャのまほう、できた」 「ほう。それは将来有望な。あなたにはこちらの勲章を差し上げましょう」  そう言うとダリウスはクラウン・マジックで出したピンクの花を愛娘の髪に飾った。 「かわいい?」 「どちらがお花なのか分からないほどには」 「でも私、きしもするの。だからかっこよくもなりたい」 「いいわダリアいらっしゃい。うちでビシバシ鍛えてあげるわ」 「騎士とクァナリーの中間ですか。精霊騎士と言ったとこでしょうか。それはそれで面白そうです」 「わたしせいれいきしする!」 「では私は精霊騎士団を創設しなければなりませんね」 「何面白そうなこと言ってるんですか。ダリウス()、カーラ様がセリオネ地方の3年分の記録が揃ったと言ってました」 「やっと揃いましたか。後で確認します」  やって来たのはレストーラーの黄色いローブを着たテティア。  今は職場では他のクァナリーたちと同じように上司と部下の立場で呼び合う。 「おかあさま! わたしせいれいきしするの」 「また何か始まったよ。今度はお父様と何を企んでるの?」  そんなテティアにダリアが駆け寄る。テティアはしゃがむとぎゅっと抱きしめ、ダリウスと同じように前髪を避けて額にキスを落とした。 「わたしクァナリーときしするの。そうしたらおとうさまがせいれいきしを作るって」 「お父様なら本当に設立してしまいそうね。ダリア、私はまたレストーラーに戻るのだけどあなたも一緒に行く?」 「わたし次はガーネときしを見にいくの」 「あら忙しいのね。邪魔はだめよ。はじっこでこっそり練習しなさい」 「はい!」  ダリアはまたダリウスの元に戻ると、「いってきます」と言ってその頬にキスをした。 「あれ、おとうさま、てってにきずあるよ。わたしがなおしてあげようか」 「ああ、これは先ほど紙で切ってしまっただけなので大丈夫ですよ」  愛娘は出来るようになった回復を披露したいのだろうが、ダリウスの体は回復を受け付けない。  その事実はまだ少し難しいだろうという事で、きちんと話はしていなかった。  リディアが気を利かせ「じゃあ騎士団に行く人―!」と言ったが、ダリアは父を回復しようとやる気満々だった。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加