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「精霊術師だ……」
「ええ、一応。左遷されましたが」
「た、助かりました」
その後閲覧制限部屋にも一緒に行ってもらい、本を戻すと一件は落着した。
「よかった……あああ、開館準備! あの、挨拶とかそう言うの、ちょっと後で! ほんとすみません!」
そう言うとテティアは大慌ててロッカーへ行き、ローブに着替え戻ってきた。
とりあえず外にある札を「開館」にし、待っていた数人の利用者に平謝りをする。
昨日の日誌――と言っても今は館長と交換日記状態だが――を確認し、今日の返却リスト、まだ返却していない督促リストを確認する。
掃除は間に合わなかったが、その他雑務を整えるともう開館から1時間後の10時になっていた。
「ああ、ごめんなさい、マイラーさん、ほったらかしにしてしまいました」
「いいですよ。勝手に見学させていただきましたから。随分と人手が足りないようですね」
「そうなんです。ちょっと理由がありまして皆辞めてしまって。マイラーさんはどうぞお気になさらずご自分の業務を行ってください」
「と、言われましてもそれほど日常的に私の業務はないんですよ。基本的にここにいることに意味がありますからね、監視員は」
「だからアンセルもさぼ…いえ、なんでもないです」
「ああ、彼、さぼっていました?」
「お知り合いですか?」
「ええもちろん。昨日意気揚々とクァナリーズに戻っていましたね。彼はさぼりのプロなんですよ」
「はあ、どうりで……。せっかく力があるのにもったいないですね」
「ええ、本当に。貴族出身にはあり勝ちな話ですね。私、それほど暇は好きではないので、人手が必要なら何かお手伝いしますよ」
「……精霊よっ」
「崇めないでいただけますか」
テティアは前任者とのあまりの違いに精霊に祈るように両手を組んでダリウスを拝んでしまった。
貸出業務を1人やった後、2人は改めて挨拶をした。
「バタバタしてすみません。改めまして、テティア・マーニシュって言います。司書歴は3年で、新人でもないけどベテランでもないです」
「私はダリウス・マイラー。クァナリー歴はそこそこありますがここにいるということでお察し下さい」
「色々あるんですね」
「ええ、色々あるんです」
ダリウスの物腰は丁寧だし、きちっとしたスーツで来ていた。
眼鏡なのとその口調のせいかとても真面目そうに見える。
短く濃い茶色の髪は乱れなくセットされ、清潔さが伺える。
あまり表情は動かないようだが、こうしてきちんとコミュニケーションを取ることに何の問題もない。
今はテティアとは違う王宮のクァナリーズと一目で分かるローブを着ているが、クァナリーズのやたらジャラジャラと精霊石で飾り付けたようなローブではなく、司書と同じようなシンプルなもの。
アンセルは色々つけていたので、どうしてそんなに簡素なのか気になった。
魔術に関して好奇心の塊のようなテティアは、業務の合間に聞いてみた。
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