2 新しい左遷……もとい派遣図書監視員

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「アンセルさんはこれでもかって精霊石ついていたのに、どうしてマイラーさんは付けないんですか?」 「ここは戦地ではないですからね。見栄を張るのなら常に持つこともあるでしょう」 「なるほど……あ、ってことはもしかしてマイラーさんは半年前の邪霊戦で戦ったんですか!?」  テティアが急に目を輝かせて聞いてくる。  彼女は知りたい欲求を抑えようとするタイプではない。 「ええ、参加しましたね」 「あんな大きな農園が吹き飛んじゃうなんて、きっと凄い戦いだったんですよね。新聞で重傷者がいたって見ましたけど、その方は大丈夫だったんでしょうか」 「見ず知らずなのに気になるのですか?」 「あー、私憧れの職業がクァナリーズだったんで、クァナリー絡みのことは気になっちゃうんですよ。まさかお亡くなりになってなんてことは……」 「もう回復して働いていますよ」  そう言うとテティアはほっとしたように「よかった」と言った。  友人の無事を知ったような、そんな顔だった。 「どうしてクァナリーにはならなかったんですか?」 「うぅ……ここにいるということでお察し下さいぃ…」  テティアは先ほどのダリウスの言葉を真似してそう言った。  泣いたり笑ったり、初対面の人の頭に網を被せたりと忙しい娘だ。 「どうしても諦めきれなくて、ここの司書になれば肩書に“国家魔術師”ってもらえるじゃないですか。それにほら、それっぽいローブも制服だし、魔法道具使うと魔法使えた気分にもなれるし。あと本が読み放題ってのも大きいですね。最近は全く読めてないですが…」 「そう言えば先ほど妖精を追いかけていた時には着ていませんでしたね」 「出勤してすぐだったので慌てていて忘れていました」 「だめですよ。異常に対処するなら尚更着ていないと」 「そうなんですか? 確かに業務中は必ず着用って言われてますけど、それって司書としての身だしなみ程度かと思っていました」  そう言うと彼は「裏地」と言った。  「裏地?」と言ってテティアがローブをめくり、内側を確認する。 「この呪文ですか? これ、頑張って前に解読しようとして出来なかったんです」 「上級者でないとなかなか読めませんよ。そのローブには防御用の呪文が付与されています。扱う本が安全とは言えないのは、先程の妖精を見てもおわかりでしょう」 「え!? そう言うものだったんですか!? 知らなかった…ちょっと気になる…」  裏地が気になってしまい、彼女はごそごそとローブを脱ぐとカウンターに広げた。  魔術専用の文字は通常上級者が扱う。  中級程度までは日常で使う普通の文字で呪文の発音を並べることが多いが、真に力を持たせるには専用の文字が必要となる。  魔術書の中には当然この文字だけで書かれたものだってある。 「これ……この最初の文字、これって精霊(クァナ)の名前ですよね…あれ、その隣もかな? こっちは地の精霊(クァナ)、ミティアスですよね」 「なかなか勉強していますね。最初のは火の精霊(クァナ)、ウィスカ。ミティアスの隣が水でミーニャ。その隣が風のウィナです。この4つは基本魔法の精霊(クァナ)ですね」 「はーーっ! そうだったんですね! 4つの精霊(クァナ)の守護を得ている、って感じですか?」 「平たく言うとそうです」 「ほあーーっ!! これ、この文字、どうやって勉強したらいいですか!?」 「あなたは自分で使えないのに覚えるんですか?」  横を見上げればダリウスが眼鏡の奥で怪訝な表情をしている。  思いの他距離が近く、テティアは「ひぇ」と小さくこぼして1歩下がった。
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