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プロローグ
彼は木に例えると柳のような人でした。
しやなかで、細くて、美しい。彼は生物学上は間違いなく男性なのですが、その洗練された所作は女性のような柔らかさを持っていて、私は彼の夏服のシャツを見るだけで、何か見てはいけないものを見ているような気にさせられていました。
とある、事件のあと。
あれは夏の終わりで、私達は二人して旧校舎の屋上に居ました。力なく座り込む彼と、彼を直視しないようにする私は別々の方向を向いて空を眺めます。
傷付いた彼は普段は誰にも見せない本音を私だけに漏らしたのです。
「人を好きになれないんだ。恋愛っていうモノに価値が置けなくて」
世の中にそう言った感覚の人がいることを、当時の私は知識として知っていました。そして私はそちら側の人間ではありませんでした。
にも関わらず私はこう彼に告げました。
「私も。実は私もそうなんだ」
あの日咄嗟に吐いた嘘を、私は今でも後悔しています。
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