岩崎信二

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岩崎信二

(見られていたのか?)  岩崎信二(いわさきしんじ)はSNSに偶然流れてきた投稿に驚いていた。  誰にも見られていないのを、信二は何度も確かめたのだ。  あそこは山道を(のぼ)っても、夜はひっそりとした展望台位しかない。だから夜間は誰もあの道は使わないと聞いていた。それで死体を埋めるのに格好の場所だと判断し、わざわざ県を越えて向かったのだ。  信二は山道を上る前に三十分程、山道の入口付近に車を停めて、山道に入っていく車がいないか確認した。その間、一台も入っていく車はなかった。  そして山道に車を乗り入れてからも、後続車がないのを何度も確認していた。  井筒トンネルの先の雑木林に着くと、通りから見えない場所に車を停め、さらに奥まった場所へ行って穴を掘り始めた。何時間もかけて、人を横に埋められる位の穴を掘った。  その間、誰かに見られた心配はない。信二には自信があった。  一度も車が通った様子はなかった。これは確かだ。山道を通る車のヘッドライトに気づかないわけがない。バイクも(しか)りだ。暗闇の中、あの山道を自転車や徒歩で通る奴はいまい。 (では何故? あの写真は?)  井筒トンネルの先の林の写真だと気づいた時、信二は手が震えスマホを落としそうになった。 (“#エイプリルフール”とあるのだから、単なる冗談なんだろう。写真も合成か何かだ)  そう思って信二は冷静になろうとしたが、もし冗談だったとしても場所とタイミングが悪すぎた。 (あるいは……。現場を見ていたぞと、俺を脅しているのだろうか?)  どちらにしても、最悪だった。  計画的に進めた。失敗するはずはなかった。  まず、女には一年前に仕事を辞めさせた。 「俺が養ってやる」と言うと、「やっと一緒になれるのね」と春香(はるか)は泣いて喜んだ。  一緒に暮らして油断させた。  春香の実家は1000キロ離れた場所にあり、両親は亡くなって兄夫婦がいるだけだ。友人関係も希薄だった。社会との関係を切ってしまえば、急に春香がいなくなっても、すぐに誰かが騒ぐ心配はなかった。  綺麗な女で八年付き合ったが、束縛が強すぎた。 「出産を考えるとそろそろ……」とか、「私の二十代はあなたに捧げたんだからね」と、結婚を(ほのめ)めかしてきた。  一度別れ話を切り出したら、包丁を持って「あんたを殺して私も死ぬ!」と迫られた。  浮気を疑われた時は、寝ている間に首を絞められそうになった。  それで信二は、別れるには殺すしかないと決心したのだ。  飲み屋で知り合った女がいた。チンピラに絡まれているところを助けてやったら、惚れられてアプローチされた。そいつは春香よりもかなり若いし、親が会社をやっていた。  結婚するならこっちの女が良かった。
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