エイプリルフール

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エイプリルフール

 岩崎信二が被害者女性の殺害と死体遺棄を認めたと、高遠刑事から純也の元に連絡が入ったのは、それから数日後のことだった。  高遠刑事が純也のアパートを訪ねてきたあの日、事件の概要を聞き協力を頼まれていた。  一人の女性が行方を断ち、その容疑が岩崎にかかっているという話だった。  被害者の女性は、元の職場で唯一親しくしていた先輩に、「もし私の連絡が途絶えたら、警察に言って」と頼まれていたらしい。犯人を愛しながら、信じ切れない何かがあったのだろうと高遠刑事は言っていた。  すぐに交際相手の岩崎の名が捜査線上に上がったが、被害者は喧嘩して実家に帰ると出て行ったの一点張り。何も証拠が見つからないため、手が出せなかった。  それでも秘かに岩崎の行動を監視していたのだが、一向に尻尾を現さない。ところが……。  エイプリルフールを境に、岩崎に怪しげな動きが見られるようになった。なぜか三津橋周という、去年事故で亡くなった大学生の周辺を()ぎまわっているというのだ。  警察は周の名前からあのエイプリルフールの投稿に辿り着き、それに反応したアカウントの中から実際に周と付き合いがあった純也に接触したというわけだ。  周が既に亡くなっているのは警察も承知していた。 「恐らく、あの写真が犯行現場なので焦っているのでしょう。被害者の女性は白いワンピースを好んで着ていたといいます。そこでお願いがあります」  岩崎が自ら犯行現場に舞い戻るよう、あの周の投稿へもう一度コメントを入れるよう頼まれた。 ──明日の夜、久しぶりにそこで会おうよ──  警察が待機していることにも気づかず、岩崎はのこのこ現場に現れた。そして何をするかと思えば、春香を埋めていた場所を掘り始めたという。 「三津橋さんのせいだとか、わけのわからないことを(いま)だに言っていますが、要は現場が心霊スポットとして騒がれだし、いつ遺体が見つかるかとハラハラしていたのでしょう。掘り返してどこか別の場所へ移すつもりだったのはないでしょうか」  そう高遠刑事は純也に説明した。  被害者女性の遺体は見つかり、連行された岩崎は犯行のすべてを白状し、事件は解決した。  そういえば警察が調べても、あの周のアカウントの投稿を誰がしたのかはわからなかったそうだ。 「犯行現場を目撃した誰かが匿名で事件を告発しようと、たまたま乗っ取れた三津橋さんのアカウントを利用してあの投稿をしたのではないでしょうか」  そう高遠刑事は純也に言った。
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