3章 8 驚きの提案

1/1

692人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ

3章 8 驚きの提案

「カイン、私は聖女なんかじゃないですよ? 皆に披露していたのはマジックなのですから」 明日はこの町でマジックをするつもりなので、できるだけ小声で話す。 「マジック? マジックとは一体何のことですか?」 当然のようにカインは首を傾げる。 「マジックというのは、種や仕掛けのある見世物のことですよ」 カインの隣に座るニーナが小声で説明する。 「種や仕掛け……?」 訳が分からないと言った素振りで首を傾げるカイン。 「あ〜もう、まどろっこしい。もういいです、マジックをやってみせますよ。いいですよね? リアンナ様」 ジャンが私に同意を求めてきた。 「うん、もちろんよ。それじゃ、ジャン、やって見せてくれる?」 実はジャンとニーナにも簡単なマジックを既に私は仕込んでいたのだ。 「はい、では早速やってみましょう」 「ジャン、頑張って」 ニーナが応援する。 「では、この白いハンカチを良く見ていてくださいね」 ジャンは白いハンカチをポケットから取り出すとカインに見せた。 「分かった」 カインが頷くと、ジャンは白いハンカチを丸めては伸ば動作を繰り返し……カインの見ている前で白いハンカチから、もう1枚取り出してみせた。 「あっ! ハンカチが2枚に増えた! そんな……君にもリアンナ様のように不思議な力があったのか!?」 「ちょっと、そんなはずないじゃないですか。私だってそれくらい出来ますよ」 驚くカインにニーナが声をかける。 「何だって? 君にも出来るというのか!? それじゃ君にも……」 「だから、そんなはずないってさっきから言ってますよね? これはマジックなんですよ。いいですか、実はこちらの袖の中にもう1枚ハンカチを隠していて、ひきだしていたんですよ」 ジャンが袖口を見せながら実演してみせた。 「本当だ! すごい……こんな風になっていたなんて……想像もつかなかった。それではリアンナ様が今まで人前で見せていたのは……?」 カインが私を振り向く。 「はい、そうです。全て種も仕掛けもあるものです。これらを総称してマジックと言います。 私は聖女ではないということが、これでお分かりになりましたか?」 「そ、そんな……」 余程ショックだったのか、俯くカイン。けれど、直ぐに顔を上げた。 「いえ、それでもやはりリアンナ様には不思議な力があると思います。現にハトを呼び集めたり、言うことを聞かせていたではありませんか。僕は、オスカーを雛のときから育てて、伝書鳩として手懐けたのですよ。それなのに……オスカーは僕よりもリアンナ様のほうが好きみたいですし……」 カインは悲しげに私を見る。 ええっ!? も、もしかして私のせいなの!? 「な、何言ってるんですか! きっと、アレですよ。私達が連れているハトに惹かれて、飛んできたんじゃないですか? だから気にすることはありませんよ?」 うう……何故、私が言い訳じみたことを言わなければならないのだろう? 「いえ、そのことならもう大丈夫なのでお気になさらないで下さい」 「はぁ……そうですか……」 だったら何故、そんな気になる言い方をするのだろう? 疑問を抱いていると尚もカインの話は続く。 「ですが、ハトだけではありません。リアンナ様は不思議な楽器を奏でて、身体の弱っていた少女の母親を元気にさせたではありませんか」 「そうですね。私もあの時は驚きました」 「俺もですよ」 ニーナとジャンがカインの話に同意する。 するとカインが俯き、少しの間何か考え込む素振りの後に顔を上げた。 「不思議な力を持ったリアンナ様は、とても貴重な存在だと僕は思います。そこで提案なのですが……この国を出るまでは、僕を護衛騎士として皆様の旅に同行させて頂けませんか?」 カインは驚くべき提案をしてきた――
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

692人が本棚に入れています
本棚に追加