王家の性教育って?

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王家の性教育って?

ナーダ諸島王国 王城94d6bc55-d1b4-4e61-8407-14923fda0dc7 王女ティアーナとアルヴィス神国の次期神帝との婚約が正式発表された数日後。 ティアーナの教育官ルクィードが、王弟ディアスのもとを訪れる。 ディアスの執務室。 何やら深刻な顔をしてやって来たルクィードにディアスが椅子を勧める。 だが立ったままのルクィード。 「大尉? 相談事があるとのことだが」 ルクィードはナーダ王軍の極秘情報部隊である“秘警隊”の将校。 王女の教育官となる前は訓練教官をやっていた。 その実直さと厳正さで部下たちからは「鬼教官」と少々の親しみも込めてあだ名されている。 なかなか話し出さないルクィード。 「どうした? 何か問題でも?」 秘警隊の指揮官でもあるディアスはルクィードの上官。 政略結婚で異国へ嫁ぐ妹王女の女官として、ナーダからただ一人同行することになっているルクィードに対しては、できるだけの配慮をしようと思っている。 何か困ったことがあれば、どんなことでも助力は惜しまないつもりだ。 「遠慮は無用だ ティアーナのことで困りごとがあるなら、私が力になる」 ルクィードがやっと話し出す。 「私の任務についてです」 ルクィードの任務は、帝妃となる王女ティアーナを守り支えること、そして諜報員としてアルヴィスの内情を探ることなのだが、今はまだ教育官として王女に一般教養と専攻した数学、物理学を教えている。 「王女は大変勉学熱心で私も教えがいがあります」 「そうか、それは良かった で、任務についての相談とは?」 「教育官としては学問をお教えするのが務めかと ただ、女官としては何があるべき務めなのかと考え、本来、女官という職務がどういうものか、過去の資料を調べました かつて王城の女官とは王妃に使える側近で、既婚女性としての嗜み全般を補佐する役目もあったようで」 「ほう? そうなのか」 王城一の知識人であるディアスも、昔の女官の職務については初耳だ。 「王女が帝妃となられた暁には、私もそのように務めるべきなのかと思いましたが 私は未婚です! 結婚生活については経験も知識も皆無です!! ですから、ご結婚される王女にご夫婦の性生活をお教えするのは無理です!!!」 きっぱり言い切った。 「あ、大尉、それは、その・・・」 どんな時も冷静沈着と定評のディアスが狼狽えている。 説明不足か?とルクィードがさらに続ける。 「生物学的な男女の肉体構造と性欲の分析でしたら、文献からの知見で対応も可能かと しかし、日々営まれる行為そのものについての具体的指南は」 「わ、わかった! 大尉、君の言わんとすることは、よくわかった」 「では、“既婚女性の嗜み全般に対する補佐” は、私の任務外ということで ご了承いただけますか」 ディアスが何度もうなずく。 「承知した、大尉 それは君の任務外としよう」 「ありがとうございます!」 ルクィードが晴れ晴れとした顔になる。 「では、失礼いたします!」 軍人らしく敬礼をして退出して行く。 はあ、と息をつくディアス。 「とは言ったものの・・・」 じゃあ、誰が教えるのか。 新たな問題の発生に考え込む。 王の執務室。 隣室の極秘打ち合わせ用の小部屋で、ディアスが兄王のガイアスに“新たな問題”を相談する。 「はあ?」と片眉を上げるガイアス。 「なぜ俺に相談する」 「そういうことは兄上のほうがお詳しいかと」 「あのな、そりゃ男にだったらあれやそれやこれやを教えてやれるが 女のほうは、さすがの俺もわからんぞ そういう話の書物は、城の図書室にもないしな」 「探したことがあるのですか、を」 ガイアスがギクッとする。 「と、とにかく、だ 誰かいるだろ そういう話を気軽にうまくしゃべってくれそうなのが」 「例えば?」 「例えば、経験豊富な侍女、とか」  にやりとして見せる。 思い当たるふしがあるようだ。 「経験豊富な侍女?」 ディアスが横目でガイアスを見る。 「よろしいのですか? 兄上のを暴露されることになりますよ」 「(俺のあれやそれやこれや?)」 dacd2a51-834b-4792-8b72-853732099da6 「・・・・・😱」 あの侍女、その侍女、この侍女との情事を妹に知られるなどとんでもない。 だが、何事にも前向きで勉学熱心なティアーナだ。 経験豊富そうな侍女をつかまえて、質問攻めにしないとも限らない。 そうなる前に対処しておかないと。 「たしかに、由々しき問題だ」 真剣な顔になっているガイアス。 「これはもう最終手段を使うしかないぞ、ディアス」 「最終手段・・・ やはり、そうなりますか」 ガイアスが決意したように立ち上がる。 「来い、行くぞ!」 ディアスを引っ張って部屋を出て行く。 ダフィーネの別邸。ed5742ac-cabc-4d65-a5be-c05f9d30a88e 体調不良で5年前に女王を退位した母ダフィーネは、王城のある本島から小型船でもすぐの離島にある別邸で静養生活を送っている。 前女王の母の前に並んで立っているガイアスとディアスに、ダフィーネが溜息をつく。 「まったく・・・ 珍しく二人揃ってやって来たと思ったら そういう用件ですか」 ガイアスとディアスが決まり悪そうに顔を見合わせる。 ディアスがガイアスをつつく。 「(俺かよ?!)」 「(最終手段の選択を決断をしたのは兄上です)」 「(この件はそもそもお前が)」 「人前で内緒話はおやめなさい! みっともない!」 叱られてしゅんとなる兄弟。 女傑と謳われた前女王は今でも息子たちに手厳しい。 「ティアーナのことなら心配は不要です あの子が初潮を迎えた時に、きちんと教えてあります」 「えっ?!」「えっ?!」 「なあんだ、そうだったのですか」 ははは、とガイアスが笑う。 ディアスも「そうでしたか」と笑顔になる。 一件落着か、と思ったら、ガイアスがふと思いついたように、 「しかし、母上 我々にはそういう教えはなかったと思うのですが」 「なあ?」とディアスを見る 「たしかに・・・ですね」とディアスも思う。 いわゆる“性教育”を受けた覚えはない。 ダフィーネがじろりとガイアスに厳しい視線を向ける。 「教えるも何も ガイアス、あなたは十二歳の時には既に城の若い召使いに手をつけていたではないですか」 「は、母上! それは・・・」 「私が知らないと思っていたのですか」 焦るガイアスに、ディアスが笑いをこらえる。 「そして、ディアス」 ダフィーネのじろり視線がディアスに移る。 「え? 私ですか? いや、母上、私は兄上のようなことは一切・・」 「あなたは八歳の時に」 「八歳?!」 ガイアスが唖然とディアスを見る。 ディアスが八歳だった時、俺は十歳 ということは・・・ こいつ、クソ真面目なくせに俺より先だったのか?! 身に覚えのないディアスは力いっぱい首を横に振る。 「母上、何か誤解されているのでは」 「いいえ あなたは八歳の時、城に迷い込んだ野良猫の出産に立ち会いましたね」 「あ、はい あの時は母猫が弱っていて、難産で大変でしたから 城の侍医も一緒に付き添ってもらいました」 「その後、侍医に個別教授を頼みましたね 人間の出産はどういうものなのか そして、赤ん坊はどうしたら出来るのか」 「あ・・・」そんなことはとっくに忘れていた。 「個別教授を受けたあなたは、その成果として研究論文を書いて意気揚々と私に見せてくれました 赤ん坊が出来る行為についての図解もありましたね それはそれは見事な写実で」 「母上・・・ それ以上はおっしゃらないでください😓」 冷や汗のディアスに、今度はガイアスが笑いをこらえる。 浜辺。92f5f1fc-ed2e-4568-8265-b2a40f475d9f ダフィーネの別邸を出て、二人で砂浜を散歩するガイアスとディアス。 「しかし、母上にはまいりましたね」 「まさか、全部知っていたとはな」 ということは、最近のあんなことやそんなこともバレているのか、と内心穏やかではないガイアス。 そういう身辺はきれいなディアスは余裕顔。 波打ち際を歩きながら、子どもの頃、毎年夏になるとこの小島に来て、兄弟三人で海水浴を楽しんだことを思い出す。 44bb1cb6-b89c-4477-bc53-ed16352454b0 「そういえば、ロドリスはどうなのでしょう」 ロドリスは一番下の弟。 今は軍の外洋船に乗務している。 考えてみたら、ディアスは弟とそういう話をしたことがない。 ガイアスがフフンと意味ありげに笑う。 「お前、知らないのか」 ディアスの肩に手を回して、耳元でヒソヒソと話す。 ディアスが「まさか」と呆れるようにガイアスを見る。 「いや、本当だ」 「またそういうしょうもない冗談を」 ガイアスが海に向かって、うーっと伸びをする。 「さあて、城へ戻るか」 「・・・兄上? ひょっとして、ロドリスには兄上が?」 ガイアスが走り出す。 「兄上?!」 ディアスも走り出す。 まるで子どもに戻ったかのように、笑い合いふざけ合いながら駆けて行く兄と弟。                                  ❤END❤ eebd4356-231e-4737-ac4a-107834c47774
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