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タイムカプセル――二十歳の夏
八月八日。
私は美優と一緒に、彼女の庭の一角をスコップで掘っていた。
「のり子、彼氏と別れたって?」
「今それ言う?」
私は軍手でひたいの汗をぬぐった。
「だって、のり子が言わないから。ずっと待ってるのに」
「なにを待ってるのよ」
横目で美優を見れば、おもしろい話が聞けるのでは? という期待に染まった顔をしていた。
「そんな顔をしてる親友に話すことはないよ」
「ケチ」
美優はスコップを放り出して地面にペタッと座り込んでしまった。
「ちょっと、一人でやらせる気?」
「暑くてヤになる。なんで今日なの?」
「十年前の自分に聞いて。この日を選んだのは美優なんだから」
「そうだっけ?」
私は一生懸命に地面を掘った。ひたいを流れた汗が目に入ってしみた。痛みで私もスコップを放り出したくなる。
「なんで出てこないの……深すぎでしょ」
「しょうがないじゃん。しっかり埋めておこうって決めたんだから」
美優はすっかり傍観者になっている。私は一人で掘り続けた。スコップを逆手でもって土をほぐすと〈カン〉と高い音が聞こえた。
「出た!」
「本当? がんばれ、もう少し!」
「もう! ちょっとは手伝ってよね」
「のり子、ファイト!」
美優は両手を振って応援に徹している。私は最近のいら立ちを根こそぎ集めてやる気に変える。
「もう! どいつもこいつも、まったく!」
荒っぽい言葉を放ちながら私はどんどん掘り進める。
ふと元カレの「ノリって、なんか思ってたより子どもだよな」と言ってフッたときのことを思いだしてしまい、さらにスコップをにぎる手に力が入った。
「本当に、男ってヤツは! 自分勝手ばっかり!」
コンコンゴッ――私の苦労も報われて、ようやく大きな缶がすがたをあらわした。
「出た! タイムカプセル」
さびれきったしかくい缶。これは十年前、私と美優がこの場所に埋めたものだった。
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