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「……それでも、僕は……」
すると、なおも苦痛に顔を歪めたままたどたどしく呟くクリフ。……まあ、そういう人だしね。だけど――
「――おいクリフ、なに躊躇ってんだ!」
「そうよクリフさん! 早くその忌まわしい悪魔を始末なさって!」
甚く逡巡するクリフに、四方から催促の声が絶えることなく放たれる。それでも、その手が――聖水入りのグラスを掴む震える右手が、こちらへと放たれることはなく。……やれやれ、仕方ないなあ。
「……ねえ、クリフ。分かってると思うけど、私はどうせ殺される。貴方が手を下さずとも、必ず誰かに殺される。それも、もしかすると見るに耐えないほど残虐な方法で。……そうなった時、貴方は耐えられる?」
「……それは」
「……うん、無理だよね。善良が過ぎる貴方には、その負荷は重すぎる。だったら、せめて苦しまないように死なせて。そして――どうかクリフ自身の手で、幸せな最期を迎えさせて?」
「…………エマ」
そう、ゆっくりと言葉を紡ぐ。すると、暫し口を噤んでいたクリフだったが――
「…………分かった」
そう、消え行くような声で呟く。そして、徐に私の方へと歩みを進めるクリフ。そして、私の瞳を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと右手を――
……うん、ありがとクリフ。そして……ごめんね。だけど、私は――
――――ピカッ。
「…………え?」
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