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讃美歌
「――あっ、おはようエマ」
「……えっと、邪魔しちゃった?」
「ううん、気にしないで。もう終わったところだし」
ある日の、昼下がりのこと。
教会へ赴くと、そこには世界を浄化するかの如く清澄な声で歌うクリフの姿が。うん、うっかり私も清められちゃいそう。
尤も、こういう光景はもう幾度となく目にしていて。神をこの上なく褒め讃え、深く祈りを捧げる彼をもう幾度となく目にしていて。天にまします我らが父は、決して誰一人お見捨てにならず、必ず窮地には救いの手を差し伸べてくださる――やはり神父と言うべきか、彼は心の底からそう信じているわけで。……だけど――
「……まあ、私には関係ないかな」
思わず、ポツリと声が洩れる。もしかすると、神は誰も見捨てず救ってくれるのかもしれない。だけど、私は例外。だって――
「……そんなことないよ、エマ」
すると、聖母のような――いや、それ以上の穏やかな微笑で以て告げるクリフ。そして、
「……底知れぬ理不尽の中にあっても、決して生を投げ出さず歩みを続ける強く健気な女の子――そんな君を、神様がお見捨てになるなんて決してないんだから」
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