転勤族から引っ越したい

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「いやぁ、成長したんだなぁ。こんなに立派になってくれて……」  パパは大人気もなく、涙を流していた。  私はそんなパパが少しかわいく思えて、ゴツゴツした手を握った。    そういえば、パパの手を握ったのはいつぶりだろうか。  小さい時は、なんでも包めそうなほど大きく感じだ。  だけど、今は少し小さく感じる。 「ねえ、パパ。私はまだパパと一緒にいたい」 「そうか……。じゃあ、転勤をなんとかしないとな」 「なんとかなるの?」 「任せとけ。これでもパパは会社ではそこそこやるんだぞ」  パパは力こぶを作ろうとしたけど、全然できていない。  だけど、不思議となんとかするんだろうなぁ、と思えた。 「んー。さっきから何盛り上がってるの?」  私たちの声で起きてしまったのだろう。  目をこすりながら、ママがリビングに入ってきた。  ママにも、この朗報を告げてあげないと。 「ねえ。ママ。パパ、もう転勤しないって」  私の言葉を聞いて、ママは眠たげな目を見開いた。  そして、寝言のようにモゴモゴと呟く。 「え、なんで転勤が終わり、って話になってるの? 気楽に不倫(・・)できてよかったのに」  その瞬間、空気が凍った。  私もパパも瞬きするのがやっとで、呼吸の音すら聞こえなかった。。  ママは自分の失言に気付いて、冷や汗だらけの顔を背けている。  ジ―――――――――――――ッ  二人して、ひどく冷たい視線を向け続けた。  すると観念したのか、ママはキレイな土下座をしたのだった。  やっぱり、寝言は本心なのかもしれない。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 読んで頂き、ありがとうございます! 娘の方が大人じゃん! と思った人は、☆をよろしくお願いします!
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