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血を抜きロープで縛った獣の身体を、近くの川原に張っていたキャンプ地へと二人がかりで運ぶ。毛皮を傷つけるのは本意ではなかったが、これほどの大きさの獲物を無傷で運ぶのは骨が折れる。肉を得られれば十分だ。
改めて見ても立派な獣だ。全長はカイが両手を広げた幅よりもずっと長い。川原でその腹を捌く彼は、ふと手を止めた。
「なにかあるぞ。なんか硬いもん」
「骨じゃないの」
「いや、違う」
胃の中に突っ込んだ手は、小さく硬いものを握っていた。川の水で手をすすぎ、石の上に腰を下ろす。
「これあれだ、ネックレスだ」
そばに寄ってきたサクに、銀色の細い鎖が連なったそれを見せる。鎖の途中には菱形の台座があり、青く透き通った小石がはめ込まれている。ネックレスは陽の光を反射してきらきらと輝いていた。
「首にかけるものだよね」
「ああ。爺さんからちらっと聞いたことがある」
受け取ったネックレスを珍しそうに見るサクに、カイは頷いた。
「じゃあ、これをつけた誰かが食べられたってこと」
「だろうな。消化されずに残ったんだ」少し考えて口を開く。「それが俺の手に渡ったんだから、奇跡的だよな」
「旅してた人かな」
「旅するやつなんて、俺たち除いてそうそういないぜ。どっかの村に住む人を襲ってから、こいつがここまで来たんだ」腹を裂かれた動かぬ獣を指さす。
「それなら、村に返した方がいいよね」
驚いて、カイは立ったままでいるサクを見上げた。当たり前の顔をしている彼に思わず笑いかける。
「確かに、家族がいるかもしれない。村探しに行くか」
どうせ終わりも当てもない旅路だ、小さな目標でもないとやってられない。
「おまえがいると、旅が随分楽しいよ」
笑って言うと、相棒は怪訝な表情をした。
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