1-13 少年は獅子の如く

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1-13 少年は獅子の如く

 教室の一画に焚き火を拵え、階下の熊の肉を使って夕食を済ませる。異形が集まってくる気配はなく、校舎の中は至極静かで穏やかな空気が流れていた。腹がくちて人心地がつき、火の灯りだけが頼りになる頃、サクが携帯電話を手にカイの横に座った。窓の外は暗く小雨が降り出し、屋根と壁があることに二人はほっとしていた。  サクがあちこちボタンに触れるのをカイはぼんやりと眺める。何十年も前から放置されている機械が動くはずがない。  そう信じていたから、機械の小さな画面が灯りを発したことに目を見張って仰天した。サクも驚いた様子で口をぽかんと開けている。 「点いた……」 「嘘だろ、壊れてないのかよ、これ」  カイも顔を寄せて機械を覗き込んだ。淡く光る画面には見たことのない記号が羅列され、一体何が書かれているのか読み取ることができない。 「読める文字だと思うけど、画面の機能が壊れてるみたい」  サクが珍しく興奮した声で呟き、左手の指先でぽちぽちとボタンを押していく。その度に画面の記号が変化するが、浮かび上がる内容はどれも理解できなかった。 「いや、でもすげえよ。ほんとに点いた」まさかこの機械が再び光を放つなんて、予想だにしなかった。「絶対に点かねえと思ってたぜ」 「僕も無理だと思ってた。本当に電源が入るなんて……」  額を突き合わせ、二人は白い光を仄かに発する携帯電話を見つめる。サクがボタンを押すたびに、ピッピッと高い音まで鳴る。焚き火が崩れかけているのに気が付き、カイは慌てて小枝を加えた。  サクの手の中で、携帯電話がプルルルと新たな音を発した。思わず彼は床に放り投げてしまったが、機械は構わず電子音を鳴らし、画面を光らせている。 「おい、なにやったんだよ」 「わからない。急に……」サクは急いで拾い直し、あちこちボタンを押し始めた。彼にもなぜ突然音が変わったのかわからないのだ。
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