1-17 少年は獅子の如く

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1-17 少年は獅子の如く

 ずしんと大きくトンネルが揺らいだ。砂埃がぱらぱらと宙を舞う。異形がトンネルから僅かに身を引くと、勢いよく突進し体当たりをする。再び轟音とともに、ボロボロのトンネルは破片を内部に降らせる。 「あいつ、このトンネル崩そうとしてんのか」  すっかり諦めてくれればと願っていたが、異形の執着心は並のものではなかった。トンネルを崩すという知能がなくとも、無理に入り込もうとしているのかもしれない。巨体が体当たりを繰り返せば、そのうち脆いトンネルは崩れてしまう。石の塊に押しつぶされれば、人の身体などとても無事ではいられない。 「一か八かで出る?」  サクの当惑する声に逡巡する。隙を見て脱出するしかないが、今度は相手が優勢だ。近づいた途端、あっという間に叩き潰されるだろう。煙幕を張ったところで、出口を塞ぐ異形の脇をすり抜けねばならない。二人とも無事でいられる保証はない。  保証などはなからありはしないが、カイは背後を振り向いた。瓦礫が散乱しているが、この隙間を抜ければ向こう側に出られるかもしれない。 「反対に抜けよう」 「でも、崩れるかもしれないよ」 「崩れる前に抜けるんだ」  力強い声に、サクがごくりと唾を呑む音が聞こえた。異形は吠えたり引っ掻いたりを繰り返しながら、トンネルに攻撃を続けている。 「サクから行ってくれ。おまえの方が身体が小さい」  わかったと返事をし、サクは背負っていたザックを下ろした。荷物など、安全が確認できてから回収すればいい。回収できなくとも、命より惜しいものはない。ショットガンを背にかけ、サクが瓦礫を踏みしめ手探りで歩き始めた。奥に行くほど微かな光も失われていく。まるで真っ暗闇に吸い込まれてしまう気がする。  カイもすぐ後に続き、手も使って瓦礫を上り下りしながら闇の中を進む。先を行くサクが僅かな隙間を見つけ、身体をねじ込み、時には這って奥へと進む。果たして出口に出られるのだろうか。不安がカイの胸いっぱいに広がる。後戻りもできなくなり、このまま崩れて生き埋めになる未来がよぎる。  ぐらぐらとトンネル全体が揺れ、ガラガラとどこかの崩れる音が聞こえる。自分の指先すら見えない暗闇と閉塞感に、息ができなくなる圧迫感を覚える。だが、前方からは確かにサクの息遣いが聞こえ、懸命に前進する音が届くから、なんとか冷静さを保っていられる。
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